2024.07.05
世界最高峰のヨットレース「アメリカズカップ」が追い求める「人の可能性」
重厚にして繊細な細工が施された、銀色に輝くトロフィー。芸術的な美しさも宿したこちら、このたび7年半ぶりに日本にやってきて注目を集めたのですが、一体何のトロフィーだと思いますか?
じつはこれ、「アメリカズカップ」と呼ばれるある競技大会の優勝トロフィーなんです。その競技とはヨットレース。アメリカズカップはその世界最高峰のレースで、なんと170年以上も続く由緒正しい大会。優勝チームに贈られるトロフィーもその当時から使われ続けている「世界最古のスポーツトロフィー」といわれています。その歴史と伝統、そして競技としてのエキサイティングさがたくさんの人を魅了し続け、趣旨に共鳴した一流のファッションブランドもこぞってサポートするなど、世界的な注目を集めているのです。その、歴史的にも貴重なアメリカズカップのトロフィーが、3月21日から24日にかけて横浜で開催された日本最大級のマリンイベント「ジャパンインターナショナルボートショー2024」のヤンマーブースで一般公開。ヤンマーは、日本企業唯一のオフィシャルスポンサーとしてアメリカズカップをサポートしているのです。ブース内の展示場所には常に警備員がおり、ものものしい雰囲気の中鎮座するトロフィーには、来場した人々から熱い視線が注がれていました。
「海のF1」? 世界最高峰の国際ヨットレース「アメリカズカップ」とは
ヨットというとどこか優雅に海の上に浮かんでいるイメージを抱く人が多いかもしれませんが、実際のヨットレース、セーリングの世界はそんな印象とはまったく異なります。最先端のテクノロジーを注ぎ込んだ船を卓抜した操船技術をもつクルーが操り海上を走る(船体のほとんどは水面から浮いた状態なので「飛ぶ」と表現するほうが正しいかもしれません)ヨットのスピードは、なんと時速100kmほどにもなるそうです。
そのスピード感とスリルから「海のF1」と称されることがあるアメリカズカップは、その呼び名も納得の、人類の叡智を詰め込んだ「究極のヨットレース」です。各チームはプライドと百億円規模の予算を注ぎ込み、栄誉あるトロフィーを手に入れるためレースに参戦してきます。前回優勝者に挑む権利を争う前哨戦を経て開催される決勝マッチは、前回大会でトロフィーを勝ち取った優勝艇と挑戦権を得たヨットの1対1での勝負。まさに世界最強のチームが正面から雌雄を決する、ドラマティックな戦いです。
レースの歴史は古く、その始まりは今から173年前、なんと1851年(ペリーが浦賀に来航する2年前!)まで遡ります。近代オリンピックの第1回大会が開催されたのが1896年、ゴルフの全英オープンが始まったのが1860年、サッカーのワールドカップがスタートしたのが1930年ですから、その歴史の長さはかなりのもの。文字通り「世界最古のスポーツトロフィー」としての格式と由緒を擁しています。ちなみに冒頭で紹介した「オールドマグ」とも呼ばれるトロフィーも当時からずっと使われ続けているもの。芸術的価値だけでなく、歴史的、文化的な面でも、まさに唯一無二のものだといえます。
そんな長い歴史を誇る大会だけあって、アメリカ(そもそも「アメリカズカップ」という名前は初代の優勝艇が「アメリカ号」だったのが由来)やヨーロッパでは高い関心と人気を集めている「アメリカズカップ」。大会期間中はTVやインターネット配信サービスでの中継で10億人が見ると言われ、ビーチでのパブリックビューイングも行われるなど、大変盛り上がります。開催中会場近くのホテルやヨットハーバーが瞬く間に埋まるほど。世界中からアメリカズカップの観戦を目的に人々が集う光景は、単なるスポーツイベントを超えた巨大な「お祭り」と呼ぶにふさわしいものです。
1851年の第1回に始まり、現在までに36回開催されてきたアメリカズカップ。第36回大会は2021年にニュージーランド・オークランドで行われ、地元の強豪エミレーツ・チーム・ニュージーランドがカップの防衛に成功しました。その優勝チームが2度目の防衛に挑む第37回大会は、今年8月から10月にかけてスペイン・バルセロナで行われます。今大会がバルセロナ周辺にもたらす経済効果はなんと10億ユーロ(約1630億円)とも言われています。
セレブやあのブランドもアメリカズカップに熱狂!
たとえばテニスやゴルフの歴史ある大会、あるいは世界各地で繰り広げられるF1レースがそうであるように、ヨットレースもまた伝統と格式をまとった、いわば「人々の社交場」としての一面を持っています。世界各地にあるヨットクラブはセレブリティたちにとってひとつのステイタスとなっていますが、彼らにとってもこの大会は憧れの的。レースが行われる開催地には世界中から王族やハリウッドスターなど各界のセレブが集まり、街はラグジュアリーなムードで彩られます。
その煌びやかさに加え、アメリカズカップが海を舞台に繰り広げてきた挑戦の歴史と伝統に惹かれた一流ファッションブランドも同大会をサポートしています。中でもルイ・ヴィトンは1980年代から大会をサポートしていて、アメリカズカップの重要なパートナーとなっているブランドです。カップホルダーに挑む挑戦艇を決める前哨戦には「ルイ・ヴィトン・カップ」という名前が付けられ、挑戦権を得たチームには「オールドマグ」とは別のオリジナルのトロフィーが授与されます。また、「オールドマグ」を運搬するための専用ケースもルイ・ヴィトン製。誰もが知るモノグラムが全面に施されたケースは、それ自体が芸術品といっていい風格を漂わせています。
ルイ・ヴィトン以外にもさまざまなブランドがアメリカズカップをサポートしており、第36回大会のスポンサーでもあったプラダはイタリアのチーム「ルナ・ロッサ プラダ ピレリ」を現在もテクニカルパートナーとして支援。オメガやパネライといった時計メーカーも記念アイテムをリリースしています。
伝統的なクラフトマンシップを大事にしながら、時代が変わる中でも価値を生み出し続けてきたトップブランドと同じく、アメリカズカップも、その長い歴史を通じて、ヨットの世界で新たな領域に挑み続ける人々の背中を押し続けてきた大会。競技用ヨットの進化は、常にアメリカズカップとともにありました。伝統と歴史、そしてその中で果敢に押し広げられてきた可能性。アメリカズカップの歴史と伝統、そして常に挑戦を続ける精神性が、数々のブランドや企業の共感を集めているのです。前回大会から大会スポンサーを務めているヤンマーもそのひとつ。日本企業として唯一、大会スポンサーを務めているヤンマーはアメリカズカップの伝統と挑戦に共感してサポートを続けています。
「アメリカズカップ」が教えてくれる「人の可能性」
ヨット競技というフィールドにおいて、常に人と技術の限界を超え、新たな可能性を生み出してきたアメリカズカップ。先述したように、現在「アメリカズカップ」に登場するヨットは時速100km近くの猛スピードで走ります。しかしこんなにスピードが出るようになったのはごく最近のこと。たった30年ほど前、「アメリカズカップ」でのヨットの最高速度は、わずか時速20kmほどだったといいます。ご存知のとおりヨットの動力源は帆で受ける風のみ。そのシンプルな原理の中でいかに速さを追求するか。その夢に懸ける人々が限界を超え、新たな可能性を切り拓いてきました。
「海」を事業分野の1つとして挑戦を続けてきたヤンマーは、人の可能性を信じ、挑戦を後押しする「HANASAKA」という価値観を持っています。ヤンマーは、創業以来受け継がれているHANASAKAと共鳴するビジョンをアメリカズカップに見出し、大会のサポートを続けてきました。サステナブルな大会を目指す姿勢がヤンマーの実現したい社会と一致していることも、同大会にシンパシーを感じる大きな理由となっています。最新のヨットに並走できる性能と信頼性をもったヤンマーのマリンディーゼルエンジンが第33回、34回大会で連覇を果たしたオラクル・チームUSAのチェースボート(レースをするヨットに伴走するボート)に採用されたのを始まりとし、その後の第36回大会では大会スポンサーに。今年の第37回大会でも、引き続き大会スポンサーとしてアメリカズカップを盛り上げます。
8月、情熱的な芸術と美食の都・バルセロナの夏に吹き抜ける風が、アメリカズカップに新たな歴史をもたらします。バルセロナではすでに大会に合わせて街や港のリノベーションに着手することが決まっており、街全体が開催に合わせて活気に満ち溢れることは間違いありません。1851年以来173年の歴史の中でもエポックメイキングな大会になることが必至の第37回アメリカズカップ。世界を虜にするマリンスポーツの祭典、ぜひ注目してみてください。