SOLUTION 03 / Cultivation Technology 育てる技術

魚数カウントシステムで
作業する人の負担を軽減、
持続可能な漁業を

中央研究所、ヤンマー舶用システム株式会社
水中に設置したカメラで撮影する映像から、リアルタイムでマグロの魚数をカウント。
98%以上の精度を実現する「自動魚数カウントシステム」をリリース。作業する人の負担を最小限に抑えることはもちろん、漁業経営の効率化や海洋分野のデジタル化に寄与します。

ISSUE

きっかけはお客様からの悩み相談の声

養殖業においては、生産数や給餌量の管理・水産庁への報告などのために、いけす内の魚数を把握することが必要不可欠です。特に1尾当たりの単価が高いマグロの養殖を行う場合は、より精度の高いカウントを行うことが効率の良い経営にもつながります。

「自動魚数カウントシステム」のプロジェクトスタートのきっかけは、マグロ養殖をされているお客様からの『管理のために尾数を数えるのが大変』というお声でした。現在、多くの養殖業者で実施されている魚数カウントの方法は、主に2つ。1つ目が、いけす内にカメラを設置したり、ダイバーがカメラを持ったまま潜水することで映像を撮影し、目視で1尾ずつ魚数を数えていく方法。そして2つ目が、ダイバーがいけすに潜水して死んだ魚をカウントし、差分で管理する方法です。どちらの方法も作業する人の負担が大きく、精度にもバラツキが出るものでした。

このような悩みをお客様から受けたヤンマー舶用システム株式会社(以下、YMS)では、ヤンマーの保有する「画像認識技術」に着目。この技術を応用することで、「98%以上の精度」を目標に「リアルタイムでマグロの魚数をカウントできるシステム」を実現するプロジェクトを本格始動させました。
このシステムの実現には、ハードとソフトの両側面からのトータルソリューションが欠かせません。今回は、他社と比較しても高い水準の映像認識技術を持っていた自社の中央研究所と協力し、社内一貫体制で進行。そのため調整もスムーズに進み、カウント精度をより高めていくことができました。そして2020年6月に実際の環境でテストを実施し、調整を加えて10~11月で再テスト。目標である98%以上の精度をクリアし、同年12月にリリースとなりました。

研究・開発中には、カウント精度を確認するために実尾数の把握が必要でした。そのため、プロジェクトメンバーも1万8000尾のマグロを24時間かけて目視でカウント。現場の人々の負担の大きさを理解し、「このシステムができれば作業する人が楽になる」とリリースへの想いを新たにしました。

魚数カウントが必要なタイミング
●天然小型マグロ(ヨコワ)を捕獲していけすに受け入れるタイミング。
●成長段階でいけすを分ける「分養」のタイミング。
●日々の在庫管理・給餌量管理として計数作業を行うタイミング。

SOLUTION

「遠隔操作で最適な撮影条件へと調整できる機能」で
98%以上の精度と負担軽減を実現

「自動魚数カウントシステム」は、カメラ・カメラに付属する映像ケーブル・画像処理専用PCおよび専用ソフトウェアで構成されています。いけす同士をつなぐ通路網の出口側にカメラを設置。マグロが移動する映像を撮影しながら、リアルタイムで数を認識します。撮影と数の認識を同時に行う“リアルタイムカウント”は、世界でもあまり類を見ないシステムとなります。

自動魚数カウントシステムの活用イメージ

本システムは、YMS初の「デジタルトランスフォーメーション関連製品」。初めての取り組みとあって試行錯誤を繰り返しましたが、養殖業者様からの貴重な映像データ提供が、研究開発を進める大きな足がかりとなりました。初期の基礎研究の段階で、「映像の撮影条件がカウントの精度に大きな影響を与えること」を明らかにでき、本システムの最大のポイントである「きれいな映像を得られるよう、遠隔操作で調整できる機能」の実現につながったのです。

自動魚数カウントシステム イメージ

この機能は、水中に設置したカメラで撮影とカウントを始める前に、自動解析に影響を及ぼす直射日光・浮遊物・障害物などといった外乱を検知し、アラート通知するというもの。そして検知された情報をもとに、作業する人は遠隔操作で映像の画角や色合いを最適条件に調整することができます。きれいな映像から自動で魚数をカウントするため、より高い精度を得られるのです。また養殖業に関わる人々を、潜水でのカメラの調整や目視でのカウントなどといった負担のかかる作業から解放することができました。
リアルタイムカウントタイプと撮影後の映像を用いて後でカウントするタイプの2タイプを提供する予定となっており、使用条件・ご希望になじむ方法での導入を可能にしています。

RESULT & FUTURE

未来に向けて持続可能な漁業を目指して

課題点を1つ1つていねいにクリアしていくことで実現した、精度98%以上のYMS初のデジタルトランスフォーメーション関連製品である「自動魚数カウントシステム」。研究・開発は、実際の映像を用いてのトライ&エラーの連続でした。プロジェクトメンバーも「ゼロからスタートした時には、ここまで来られるとは思わなかった」と喜びを語ります。これからはお客様に喜んでいただけるロングセラー商品になることを目標に、人が携わらなくても精度を保てるしくみや、マグロ以外の魚種での実現に関しても研究を続けていく予定です。また、お客様サービス面での向上も目指します。そうして海外への展開も視野に入れたアップデートを、絶えず続けていきたいと考えています。

持続可能な開発目標であるSDGsの「14 海の豊かさを守ろう」に示されているように、海洋分野は世界規模でも近年重要視される分野です。資源管理を求める流れが強まり、マグロ養殖においても天然小型マグロ(ヨコワ)を種苗として用いる際には正確な尾数の報告が必要となっています。そのため、本システムは世界の海の資源を守るためにも必要な技術とも言えます。

日本においては、海洋分野は他分野と比べデジタル化が進んでいない傾向にあります。また、人々の暮らしに欠かせない「食」を支える産業でありながらも、国内漁業者数は減少をたどっています。少ない人数でも経営を効率良くするしくみを見い出していくことが、漁業が未来に続いていくために必要とされているのです。ヤンマーでは「自動魚数カウントシステム」のようなスマートな商品を生み出すことで、漁業や第一次産業のこれからを支えていきます。

FUTURE強力な研究開発体制で、
イノベーションにおける“壁”を打破

技術経営分野の専門用語では、自社の研究成果を商品化するための各ステージには大きな障壁があり、それぞれ「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と呼ばれています。今回のプロジェクトでは、企画・研究・開発・サービスなどといった各部門のプロフェッショナル達が明確な目標を持って協力し合うことで、イノベーションを起こす際に陥りがちなこれらの壁を超えることができたとメンバーは語ります。

まず、イノベーションの1つ目の壁となる「魔の川」とは、基礎研究から開発への移行を阻む壁のことで、研究結果を開発に有効に活かせないまま終結してしまうことを言います。しかし、今回は「精度98%以上」という明確な目標と、養殖業者様からの映像提供があったため、開発へとバトンをスムーズにつなぐことができました。
次に、2つ目の壁となる「死の谷」。これは開発まで進んだ研究が、実機として販売できる状態への移行を阻む壁のことを言います。ですが今回は、試作機を現場に持ち込み、お客様の直面する様々な条件下での試験を行い、繰り返し機械学習することで、現場での使用に耐えうるシステムを実現しました。
経験がなかったUI設計の分野でも、デザイン戦略室や協力会社と協業することで開発を進めることができました。こうしてできたUIを、実際にお客様にお使い頂き、改善を重ねました。
そして、3つ目の壁となる「ダーウィンの海」。これはリリース後に市場でシェアを獲得していく段階での壁であり、これから取り組んでいくフェーズになります。「常にアップデートし、お客様に認められる製品づくりで、この壁を越えていきたい」と、これからの展望は拡がります。

※所属は2023年4月時点の情報です

関連情報

マグロ自動魚数カウントシステム YFC-T

養殖マグロの魚数カウント作業省力化に貢献します。