SOLUTION 01 / Environmental Load Reducing 環境負荷低減

クリーンにそしてパワフルに
ディーゼルとガスを併用する
舶用エンジン

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社 特機事業部
地球環境保護の観点から、舶用の世界でも排出ガス規制が強化されており、NOxやSOxなどの環境汚染物質の削減が課題となっています。環境負荷低減のためにヤンマーは、ディーゼル燃料と天然ガス燃料(LNG)の切り替え運転が可能なデュアルフューエルエンジンを開発。タグボートなどへの採用が進んでいます。

ISSUE

未来の地球環境への配慮や経済効率の
高い運航を見据えたエンジンを

世界中の海で稼働する大型船舶には、大きな出力を有するエンジンが搭載されています。しかし、エンジンから排出される環境負荷物質による大気汚染については、世界的な課題とされています。そんな中、近年注目されているのが天然ガスの利用。環境にやさしく温室効果ガスを低減することが可能です。そこでヤンマーでは、環境性に優れたLNG燃料と比較的入手の容易なディーゼル燃料の両方をフレキシブルに使用できるデュアルフューエルエンジンの開発をスタート。お客様の生涯価値(L.C.V.=Life Cycle Value)向上を追求した信頼のエンジンをベースに開発を行い、IMOのNOx3次規制(IMO3)およびSOx全海域規制に対応することを目標にしました。

国際海事機関(IMO:International Marine Organization)のNOx排出規制において、2016年1月1日から施行されている3次規制(IMO3)。1次規制比80%減となるIMO3は、N-ECA(NOx Emission Control Area)と呼ばれる指定海域内に適用されます。SOxについては米国・カナダ沿岸、米国カリブ海、北海・バルト海が既に規制対象となっており、NOxについては米国・カナダ沿岸が既に規制対象で、2021年1月1日から北海・バルト海も規制対象になります。

SOLUTION

ヤンマー独自の技術により
安全かつ安定した航行を実現

ヤンマーが開発したデュアルフューエルエンジンには、高精度な「空気流量制御技術」を導入。常に最適な燃焼状態に維持することで、ガスとディーゼルの2種類の燃料を使い分けながらも、より信頼性の高い安定した運転を可能にしています。また、独自の「空燃比制御」と「ノッキング検出システム」を搭載。異常燃焼(ノッキング)が心配される低メタン価の天然ガス燃料でも、シリンダ内圧力をリアルタイムで解析。高速制御することでノッキングを回避。世界中の天然ガスに対応し、出力制限なしで運航できます。なお航行中は、最大出力時でもディーゼルモードからガスモードへ切り換えが可能。緊急時には、ガスモードからディーゼルモードへ安全かつ瞬時に移行します。

RESULT

厳しい環境規制にも対応

開発された6EY26DFのガスモードでは、同クラスの当社ディーゼルエンジン6EY26Wと比較して、NOx(窒素酸化物)は約80%、CO2約25%、SOx(硫黄酸化物)とPM(粒子状物質)においては約99%を削減。IMO3次規制もクリアしています。燃費の良さやパワフルさといった強みを維持しながら、世界的な重要課題となっていた環境負荷の低減・燃料価格の変動などにも対応する新たな技術を創造したのです。こうしてエンジンの進化を牽引してきたヤンマーは、これからも次世代を見据えた技術の多様化に取り組み続けます。

INTERVIEWタグボート「いしん」に搭載
“人のつながり”がプロジェクトの推進力に

2019年3月から、大阪湾や瀬戸内海を航行する大型貨物船の警戒業務や入出港のけん引作業に従事するタグボート「いしん」。液化天然ガスを燃料とし、IGFコード(※)の基準を満たす国内初のタグボートとして注目を集めています。この「いしん」の推進用主機に、ヤンマーのデュアルフューエルエンジン「6EY26DF」が採用されています。

タグボートは自身よりはるかに大きく重い船や構造物を押したり、引いたりする作業特性上、急激に大きな負荷がエンジンにかかります。試験担当の洞井さんは「ヤンマーの舶用主機としてはガスエンジンの実績はなく、一般的にガスモードは負荷変動に弱い。最初の納入先としては正直大変だと感じました」と開発当初を振り返ります。「共同でプロジェクトに関わった各社との会議でも『本当に大丈夫?』『この条件を耐えないとタグボートで使えないよ』と厳しい言葉が飛び交いましたが、ヤンマーも期待に応えようと一丸となって課題解決に努めました」と洞井さんとシステム設計担当の久保さん。機関設計を担当した西村さんは「環境性はもちろん乗組員の方々がガスモードでも安心して使えるように安全面の評価も徹底しました」と語ります。

初運航の現場には、サービス部門のメンバーはもちろん開発メンバーも乗船。共同でプロジェクトを進めた各社からも「形になって、本当に船が出来ていくんだと思った時の一体感はかなり大きかった」「うれしいとともに感激した」などの声が集まりました。お客様とヤンマーが一丸となり推進したことで、実現したプロジェクトでした。

※IGFコード : ガス燃料及び低引火点燃料を使用する船舶への安全要件を規定するため、2017年に発行された国際ガス燃料船舶安全コード

※所属は2020年4月時点の情報です