Tier4規制適合エンジン
目標:「空気よりきれい」な排ガス。
ヤンマーが産業用小形ディーゼルエンジンの開発で排出ガス規制対応に本格的に着手したのは1990年代前半です。段階的に強化される規制に合わせて新型エンジンを開発し、市場に投入してきました。しかし、2013年に始まった「Tier4」は、前段階の「Interim Tier4」に比べ、PM(すす)で90%以上、NOx(窒素酸化物)で約40%の削減が義務付けられるという厳しいものでした。ヤンマーはこの規制に対応するため、開発、生産、品質管理、販売の各部門を越えた連携により、3年間の開発期間を経て「Tier4」対応エンジンを開発しました。
「Tier4」対応エンジンは、電子制御により燃料噴射をコントロールする「コモンレールシステム」、PMなどの捕集や自動排除を可能にした「ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)」、NOxを低減できる「クールドEGR(排出ガスの再循環)」の3つの技術を採用することにより、世界で最も厳しい排出ガス規制の一つであるスイスの大気汚染防止法の認証を取得することに成功しました。
産業用ディーゼルエンジンの排出ガス規制は、2000年から日米欧が歩調を合わせて段階的に進めてきました。米国では「Tier」、欧州では「Stage」と呼ばれ、排気ガスの中に含まれるPMやNOxを削減することを規制するものです。第4次排出ガス規制の「Tier4」は「Interim Tier4」を経て2013年から開始されました。
なお、米国や欧州の規制が排出ガス中に含まれるPMなどの質量を規制するのに対し、スイスの排出ガス規制は粒子数を規制する新たな考え方で、将来的には世界各国が追随するものとみられています。
新型エンジンは、「Tier4」の規制値に対応するため、これまでヤンマーが製造してきた産業用ディーゼルエンジンとは異なり複雑な電子制御技術やDPF、EGRなどの環境技術を新たに搭載しています。そのため、中央研究所の川辺は「これまで社内で蓄積されてきた技術に加え、社外から新たな知見や考え方を取り入れるため、世界中のメーカーを訪問し最適な情報を仕入れたうえで、ヤンマー独自の技術を構築し、開発の方向性を定めていきました」と話します。
コモンレールを担当した堀が「どのような技術が必要かは見えていたのですが、どうやってそれらを整理すればいいのかが分からなかった。まさにトライ&エラーの繰り返しでした」と振り返れば、ハード部分の構造設計を手がけた小野寺も「作業機側への搭載を考えたとき、エンジンの外形サイズは原則変えられない。新たな電子部品を追加するため、どうやってコンパクトに作るか試行錯誤の連続だった」と語ります。
試験担当の遊木は「DPFなど未知の技術開発に取り組むにあたって、社内外の知識やアイデアを地道に積み上げていったことがブレイクスルーにつながった」とさまざまな困難に打ち当たりながらも、部門を越えた総合力でそれぞれの課題を乗り越えていきました。
プロジェクトは、エンジンの開発と並行して営業や品質管理、生産技術の各部門も同時に動いていました。営業部門では「試作当初からお客様の作業機に搭載いただき、エンジンの信頼性の確認をベンチ試験と同時並行で実施しました」と担当の森は話します。
量産試作や量産後の品質管理を受け持った藤本は「複雑なエンジンですから、評価項目も当然のように増えていきました。量産化にあたっては、試作機の段階から各種部品の選定や作り方を変えていきますので、その時点でも品質が低下しないようにチェックしていきます」。
量産化の段階では、生産技術部門が生産ライン設備やレイアウトの変更を大幅に実施しました。生産を担当した三好は「びわ工場で製造しているエンジンは1,800機種あり、ラインで流れているエンジンは1台1台違う状況です。ここに部品点数の多い新型エンジンが追加されますから、品質を確保するためのライン構築は困難を極めました」と語ります。
「Tier4」対応エンジンの完成は、それぞれの課題に各部門の現場で働く社員一人ひとりが"技術のヤンマー"としての誇りにかけて、新型エンジンを世の中に送り出すという同じ目的に向かって挑んだことで実現しました。ヤンマーはこれからも世界最先端のエンジニアリング力を生かしたソリューションを展開していきます。