舛井 香様 富沢 錦之様
住所 : 静岡県御前崎市御前崎
一本釣り船『第二大興丸』 電子制御エンジン6AYESG-GT
全長・幅(m) : 14.05 × 4.18
総トン数 : 17G/T
補機関 : 4JHL-TN
出典 : YANMAR mare vol.38(2017年8月発行)
住所 : 静岡県御前崎市御前崎
全長・幅(m) : 14.05 × 4.18
総トン数 : 17G/T
補機関 : 4JHL-TN
出典 : YANMAR mare vol.38(2017年8月発行)
第二大興丸が電子制御エンジン6AYEに換装してからほぼ7ヵ月が経った。南駿河湾漁業協同組合に属し、キンメダイ漁を主とする船主の舛井香さん(60歳)は満足気な笑みを浮かべて「本当に抜群だ!音は静かで、黒煙が出ないというのは凄いね」と操船の感想を力強く語る。また、本船の共同所有者の富沢錦之さん(57歳)も「とにかくエンジン音が静かだよね」と口を揃える。
そもそも舛井さんと富沢さんの両船主が本船のエンジン換装に至った要因のひとつは、TPP(環太平洋経済連携協定)関連政策大綱による漁業用機器導入補助事業で認定されたことだ。その事業への申し込み書類の手続きを引き受けた静岡ヤンマー㈱西部営業所の伊達幸祐所長は、「平成28年の6月頃に認定を受けたが、換装については前から相談を受けていました。当初は6AYPを候補に挙げていたのですが、書類提出の頃に、ヤンマーで新しい電子制御エンジンが開発されたというので、実機は見たこともないままそれに変えました」と思い起こす。
そして伊達所長は、実機を確かめるべく神戸で開催されたヤンマーの新商品展示会を訪れる。「展示会では6AYPと6AYEの違いをグラフや表で詳細に解説してくれました。気がかりだった燃費も低減されている。ただ第二大興丸の既存のエンジン850馬力から6AYEでは1002馬力になるが、同程度の燃費であってくれればという思いだった」と伊達所長。ところが、6AYEを搭載した第二大興丸は、前のエンジンの燃費を10~20%の幅で低減していたのだ。
第二大興丸
富沢 錦之氏
第二大興丸
舛井 香氏
静岡ヤンマー(株)西部営業所
所長 伊達 幸祐氏
第二大興丸が漁を行う漁場は、御前崎の沖合い150マイルの遠方になる。漁港を出港してから半日かけて漁場にたどり着き、2日ないし3日間沖で停泊して漁を続け、また150マイルの距離を半日かけて帰港する。およそ3日~4日の漁獲日程である。それだけに燃費についてはシビアに捉えている。「前のエンジンと同程度のスピードで走行した場合は10%くらいの低減だが、時間短縮のために回転数を上げてスピードを出すと、やはり20%くらい低減されます」と舛井さん。富沢さんは「操舵室の計器盤には常に燃料の消費量が数値で表示されるので、その変動する数値を睨みながら経済速度で操船している」という。
また操業中のエンジン音について、この考えは私だけの認識であるがと前置きをして、「回転を上げて凄い音をさせて漁場まで行くと、その音が水深500m~600mまで結構響いてキンメダイが警戒していたのではないかという懸念を持ちながら漁をしていた。いまはエンジン音が静かなのでそういう気掛かりがなく、平静に漁をしている。実際にキンメダイに聞こえているかどうか分からないが」と大笑いしながら舛井さんは語る。
南駿河湾漁協は、シラス部会、1本釣り部会、刺網部会、沿岸釣り部会、兼業部会と漁種によって5つの部会に別れ、100隻の漁船が所属する。これらの漁船の船主から「第二大興丸はハイブリッドエンジンを搭載しているのではないか」という噂まで広がっている。
搭載された6AYESG-GTのエンジン音の静粛性が漁に好結果をもたらしているという。
計器盤には走行中の燃費・負荷率が刻一刻と表示される。
春先の2~3月頃はカツオ漁にも携わるが、通年ではキンメダイ漁が90%を占める。漁場では電動リールを装着した1本の竿に30~50本の釣り針を付け、その糸を水深深くまで落とす。電動リールを使うというのは、どこか釣りファンがレジャー気分でフィッシングを楽しむ景色のようだが、歴とした漁師である。
「もともと私は漁師ではなく、御前崎によく釣りに来た釣りマニアだったのです。釣り好きが高じて、昭和63年に名古屋の尾張小牧からこの地に家族揃って転居し、釣り道具の店を開店しました。だから親から引き継いだ漁法などというのではなく、私たちが楽しんでいた漁法をそのまま活かして今も電動リールで漁をしています」と舛井さんから予想外の回答。
開店した釣り道具店が大繁盛し、かねてからの釣りの友人である富沢さんに声がかかった。名古屋で会社勤めをしていた富沢さんも二つ返事で平成元年にやって来た。2人は漁協への組合員登録を経て、1・5トンの漁船で沿岸の漁に出る運びとなる。これが今日の第二大興丸を駆ってのキンメダイ漁のスタートだった。
「いまでこそ八丈島や伊豆の漁船も7割ほどが電動リールを採用するようになったが、私たちが14~15年前に電動リールを使っていた頃は漁船での使用は皆無で、ほとんどが漁船に固定された機械式のラインローラーでした」と舛井さん。
ラインローラーでの道糸は太いが、電動リールに使用される道糸は極限まで細いものが求められる。道糸が細いぶんだけ波や風の抵抗が少なく、安定した釣り針の状態を保てることになり、当然それは漁獲量に好結果をもたらすことになる。いま、1航海で揚げられる平均700~800キロのキンメダイの実績は漁協で群を抜き、トップクラスに君臨する。
現在、釣り道具店は奥様と従業員に完全にまかせている。富沢さんにはお子様がおらず、舛井さんのご長男は自ら選んだ道を進んでいるから後継者はいない。
まだまだ現役だと胸を張り、第二大興丸の2人の船主は今日も黒潮の果てまでキンメダイを追いかけている。
水揚げされたキンメダイは底に氷を敷いて鮮度を保つ。
漁場では舷に常時3本の電動リールが固定される。