福島 正和様
住所 : 北海道虻田郡洞爺湖町
ホタテ養殖「第五正福丸」
電子制御エンジン6GY135W-PGGMS
全長・幅(m) : 21.17 × 4.86
総トン数 : 9.7G/T
主機関 : 6GY135W-PGGMS
出典 : YANMAR mare vol.45(2024年発行)
住所 : 北海道虻田郡洞爺湖町
全長・幅(m) : 21.17 × 4.86
総トン数 : 9.7G/T
主機関 : 6GY135W-PGGMS
出典 : YANMAR mare vol.45(2024年発行)
図形で言えば、大きなひし形に例えられる北海道。左下に突き出ているのが渡島半島で、アルファベットの「C」に似た形状の海域が噴火湾(内浦湾)だ。実にユニークな名称であるが、実際には噴火によって形成された海域ではなく、駒ヶ岳や有珠山といった火山に囲まれていることから名づけられたという。主な産業は水産業で、中でもホタテの養殖は日本一と名高い。複数の川が流れ込んでいる噴火湾は、ホタテにとっての栄養であるプランクトンが豊富。その身は甘みがあって弾力に富み、貝柱が大きいことも特長だ。
噴火湾はホタテ養殖発祥の地とも呼ばれ、採苗試験が開始されたのは1954年とされている。しばらくは不調が続いたものの1970年あたりから生産量が急増。1974年には1万8000トンだったのが、1977年には6万2000トンに到達している。以来、2000年の有珠山噴火、2011年の東日本大震災による津波被害などを乗り越え、洞爺湖町における漁業の主力であり続けている。
そんな噴火湾で営まれているホタテ養殖の手法が「耳吊り」だ。まずは稚貝の耳と言われる部分(貝の殻の付け根にある、少し広がった部分)に穴をあける。ここにヒモを通して、稚貝がたくさんぶら下がった状態のものを大量に作成。これができると海へ出て、ホタテを設置するロープに耳吊りしたヒモを結び付ける。養分の豊富な海中に沈めると、後は大きく育つのを待つだけ、と思いきや…
「意外かもしれませんが、通年せわしなく作業が続くんですよ」と話すのは、有限会社福島漁業の福島正和氏。同社は地元の「いぶり噴火湾漁業協同組合」に所属しており、正和氏は三代目社長候補と目されている。
「この地で水産業を始めたのは、祖父の正雄氏。そもそもは菓子店を営んでおり、兵役を終えてから漁師になりました。新参者であったことから、最も条件の良くない場所をあてがわれるなど苦労も多かったと聞いています」
小型のボートで海藻類や貝類、小魚を漁獲するなど地道な仕事を積み重ね、ようやく仲間として認められたという。ホタテの養殖に取り組み始めたのは、父親である浩二氏の代になってから。「これからの水産業は獲るだけではなく、育てることも必要だ」といった思いがあったという。しかし、ホタテの養殖も順風満帆とはいかなかった。この事業が軌道に乗りかけた頃、目の前にそびえる有珠山が噴火。手塩にかけて育てたホタテが、壊滅的な被害に見舞われたのだ。周りの同業者が意気消沈する中、浩二氏は大胆にも新船の建造計画を口にする。「この地の水産業はホタテの養殖しかない」との信念から、早々に第五正福丸の新造に踏み切ったのだ。
さて、長男である正和氏は、幼い頃から家業の手伝いに勤しんでいた。高校生になると午前二時には父親とともに船に乗る。明るくなるまで波間に揺られ、七時ごろに帰宅。急いで朝食をかきこみ、眠い目をこすりながら登校していたという。高校卒業後は、北海道立漁業研修所へ。漁業の基礎を学びながら、船舶操縦士などの資格取得に励む。その頃にはすでに、家業の承継を意識していたそうで、現在は父親と力を合わせてホタテの養殖に励んでいる。
ホタテの養殖にはセオリーがあり、それに則れば一定水準の成果は見込める。しかし福島親子は、それだけでは飽き足らない。目指すは「生命力の強いホタテ」の養殖である。死んでしまっては商品にならないことはもちろん、元気がいいほど美味しくなるからだ。では、どのようにすれば生命力の強いホタテに育つのか。キーワードは“ストレスフリー”である。「海水の状態を観察しながら酸素の供給量を加減するなど、こまめな調整を行っています。出荷時には、業界の通例で一つのカゴに500枚入れるところを、ウチでは300枚に抑えています。ホタテも人間も同じで、満員電車よりも空いている方がストレスを受けにくくなるとの考えからです」
ホタテの健康管理に余念がない福島さんだが、気がかりなこともあるという。それは予期せぬトラブルである。万が一にもエンジンが故障してしまうと、取り返しのつかない損害が発生してしまう。こうした疑念は、一度頭に浮かぶと離れなくなるものだ。
その頃、第五正福丸は12年目を迎えていたが、日々の業務に支障は無かった。建造時に設置したヤンマーエンジン6KXZ-WGTも順調そのもの。しかし、問題が発生してからの対応では遅すぎる。乗り慣れた船はそのままに、心臓部であるエンジンだけは換装しようと考えた正和氏は、迷わずヤンマーに足を運んだ。
ちょうどその頃に発売されたのが、コモンレールシステムが話題の電子制御エンジン6GY135W-PGGMS。クラスナンバーワンの高出力と低燃費を達成している。補助金制度も利用できることも購入を後押しし、2023年12月に載せ替えが完了した。換装作業を担当した整備士の納谷祐介氏は、当時の様子を次のように語ってくれた。
「このクラスの電子制御エンジンは、噴火湾海域では実績がないものの、他地域では高く評価されている。今後は主流になってくるだろうと告げると、福島様は『一緒にチャレンジしてみよう』と話されたんです。そして現在、換装から半年以上経っていますが、何も問題はありません。停泊所から養殖場まで一日に何度も往復する中で、燃費の良さを実感。静音性が高く、船員への声も届きやすくなって安全性が向上したと喜ばれています」
このエンジンと同時にオプションで採用したのがSA-R(スマートアシストリモート)。GPSを活用して現在地の情報やエンジンの稼働状況を管理し、メンテナンス、管理ツールとして効率化を図るシステムだ。エンジンの不調などが発生した場合、ヤンマー販売店に直接、信号が送られてくる。これまでならランプの点灯やブザー音を聞いた乗組員が無線で知らせるような情報を、人の手を介さず伝えるものだ。第五正福丸においては、エンジンの冷却用海水パイプがゴミ詰まりを起こした際に作動。オーバーヒートによるトラブルを未然に防ぐことができた。
こうして新たな付加価値を加えた第五正福丸について正和氏は、あと10年は乗り続け、その後は自身がオーナーとなって新船を作りたいと話す。
「ウチには大学生から小学生まで娘が3人、息子が1人いて、全員が家業を手伝ってくれています。そんな私たちを支えてくれる、妻にも大いに感謝しています。10年後の家族のかたちはわかりませんが、それぞれがお互いを思いやりながら、新たな船出を迎えられたらと考えています」
電子制御エンジン6GY135W-PGGMS
メカスロットル仕様(セミ電子制御方式)
操舵室。ホタテ養殖の作業スペースを広く確保するため
艏(おもて:船首)に備えられている