東町漁業協同組合様
住所 : 鹿児島県出水郡長島町
魚体重自動解析システム YFWA
出典 : YANMAR mare vol.45(2024年発行)
住所 : 鹿児島県出水郡長島町
出典 : YANMAR mare vol.45(2024年発行)
鹿児島県の最北端に位置する島・長島町。長く続く海岸線には入り江が多く、潮流の出入りが極めて厳しい環境である。今回取材の対象となった「東町漁業協同組合(以下、東町漁協)」は、1949年にこの地で産声を上げた。同漁協の管内において、東は八代海に面して九州全土を臨み、西は長島海峡を挟んで天草と対峙。長島本島をはじめ獅子島、伊唐島、諸浦島ほか23の島々が点在している。
東町漁協の展開する漁業について、特徴的な地の利を存分に活用していると教えてくれたのは、東町漁協総務部指導共済課の古川新平氏だ。「海峡の早潮と年間平均水温19度という条件を活かした漁業スタイルが『海面養殖』で、全国でも指折りの生産高を誇ります。中でも本格的なブリの産地として歩み出したのは、今から約半世紀前。1974年、長島町と阿久根市を結ぶ黒之瀬戸大橋が開通したことをきっかけにスタートし、現在単一漁協としてはナンバーワンの座を獲得しています。日本各地はもとより海外への輸出も増える一方です」
豊かな自然を背景に、東町漁協では多種多様な天然魚が水揚げされている。中でも3月から5月にかけて水揚げされる天然真鯛は「桜鯛」と呼ばれ、1日に1トンを超えることも珍しくないという。マダコは、夏季の産卵期は自主的に禁漁し、自然を守りながら水揚げされる。そのほかカサゴやメバル、マアジ、ヒラメ、オニオコゼ、イサキなど例を挙げれば枚挙にいとまがない。とは言え、令和4年度の販売取扱高132億1700万円のうち、養殖ブリは111億4800万円。実に八割強という大きな割合を占めているのだ。
現在、この地には養殖業者が112件あり、ブリ養殖はすべて東町漁協が一元化して販売している。管理については、その他の養殖魚を含め、水産事業の経営から海面養殖の技術指導、漁場および漁業権管理全般、種苗の生産、トレーサビリティ管理までをトータルに担う、まさに無くてはならない存在だ。
海面養殖に用いる生け簀のサイズは、内部を回遊するブリの成長具合に応じて替えていく。大小さまざまあるが、いずれも約7000匹のブリが泳いでいる。東シナ海や太平洋で採捕されたモジャコ(ブリの天然稚魚)から育てていくのであるが、早く太らせれば良いというものでは決してない。年末にかけて増加していく買い取り先のニーズに合わせて、計画的にサイズアップしていく必要があるからだ。
例えば「〇月〇日に5キロのブリを〇尾ほしい」という注文があれば、その量に相当するブリが出荷当日、ちょうど5キロに達するよう可能な限り給餌の量や回数を調整していく。そのためにはまず、それぞれの生け簀を泳ぐブリについて、今現在の生育具合をチェックしなければならないのだ。海上からの目視ではとても把握できないブリのサイズを測る、その手順は次のとおりだ。
水中カメラを2台備えたステレオカメラ(AQ1SYSTEMS 社製 AM100)を生け簀に投入。約6分間、ブリが群泳する内部の様子を動画で撮影する。次に、保存した映像をもとに魚の体長・体高を把握し、その数値をもとに体重を算出するのである。
一見シンプルにも思えるこの方法は、これまで長い間実施され続けてきた。しかし、この方法には決して軽視できないある課題が付きまとっていたという。その課題とは、とにかく手間と時間がかかりすぎることである。「まずは2台の水中カメラによって録画された生け簀内の画像を1台のパソコン(AM100用パソコン)のモニターへ同時に映し出します。それぞれの画像には、同じ魚体の映像が微妙に異なる角度で映っています。これにより魚を立体的に捉え、太り加減(厚み)を知ることができるのです。さて、次には魚の『嘴と尾』『背と腹』に漁協の職員が計測点を打つのですが、このプロット作業に手間がかかるのです」
生け簀内にいる魚の平均値を出すには、どうしても30匹ほどの計測が必要である。ただでさえ手間のかかるプロット作業を30回繰り返すことになるのだ。生け簀一カ所当たりの作業所要時間は15分から30分。もちろん職員は他にも多数の案件を抱えており、他の業務に支障をきたしてしまうことも少なくない。しかも根気のいる作業なので、1日10カ所分が限界だとか。それでも12月の出荷シーズンに合わせた計画的な生産には怠ることができない作業であり、職員は心身ともに無理をしてしまうことが多々あったという。
こうした現場の不満を一気に解消したのがヤンマー独自の自動解析処理システム、その名も「魚体重自動解析システム」だ。ステレオカメラを生け簀へ投入し、水中映像を撮影・保存するまでは従来どおり。「魚体重自動解析システム」が本領を発揮するのはここからである。
「AM100用パソコン」と「魚体重自動解析パソコン」をLANケーブルで接続。あとは簡単な操作をするだけで、ヤンマー独自の自動解析システムが体重解析に必要な情報を自動で取得する。自動解析の結果は、AM100 New Analyzer用のパソコン画面で確認できるのだ。
「私たちがこのシステムを導入したのは、今から1年ほど前になります。操作についての特別な知識や経験は不要で、最初からスムーズに使用できました。これまでと同じように30匹ほどのブリを対象とするのですが、体長と体高の計測から体重の算出までを自動的に、わずか10分ほどで行います。得られたデータは出力も可能なので、使い勝手もいいですね」と話すのは、東町漁協販売事業部生産管理課生産管理係の宮脇秀斗氏である。
これまでは担当者がプロット作業を行っていたため、モニター前に居座り続ける必要があった。その点についても、この『魚体重自動解析システム』によって得られる恩恵は大きいと言う。「いったん始動させてしまうと、解析結果が出るまでほぼ任せきりにすることが可能です。パソコンの前から解放されること、すなわち別の業務に取り組む時間を生み出してくれたことには本当に感謝しています」と喜びの言葉を口にした。