北野 博文様
住所 : 和歌山県西牟婁郡白浜町
一本釣り漁船「海佑丸」電子制御エンジン6AYESP-GTMS
全長・幅(m) : 16.50 × 4.10
総トン数 : 11G/T
主機関 : 6AYESP-GTMS
出典 : YANMAR mare vol.45(2024年発行)
住所 : 和歌山県西牟婁郡白浜町
全長・幅(m) : 16.50 × 4.10
総トン数 : 11G/T
主機関 : 6AYESP-GTMS
出典 : YANMAR mare vol.45(2024年発行)
刺身に良し、タタキに良し、藁焼きに良しと、素材を活かした料理が人気のカツオ。健康ブームが再燃する今、高たんぱく・低カロリーであることからも注目を集めている。若い世代を中心とする魚食離れ現象の救世主として漁業関係者からの期待が高まる一方、見逃し難いデータもある。日本近海において、カツオの水揚げ量が減少傾向にあるのだ。それは鰹節発祥の地であり、カツオ漁の技術を全国に広めた和歌山県でも例外ではない。
深刻な不漁の背景には、2017年に始まった「黒潮の大蛇行」がある。黒潮は日本列島に沿うように北東へ流れているが、大蛇行では紀伊半島沖から離れ、南に大回りの軌道をたどる。黒潮に乗って回遊するカツオ漁への影響は大きく、2022年度における主要な漁港(串本・すさみ・田辺等)の水揚げ量は、過去10年間の三分の一程度となってしまった。昨年5月は幸運にも豊漁に恵まれたが大蛇行は継続しており、漁獲減少の予測は覆されていない。
先行きの不安が広がる中、果敢にもカツオ漁へと舵を切る漁師がいる。和歌山県西牟婁郡白浜町の見草漁港を拠点としている北野 博文さんだ。「父親の代は、真鯛の一本釣りとケンケン漁。私はマグロの一本釣りで漁業を営んできました。
約6年前からは次男(海さん)も同じ船に乗り込むようになり、親子二人で黒いダイヤモンド(クロマグロ)を追いかけるように。そして2023年12月、新造船・海佑丸を竣工し、カツオ漁にもチャレンジできる体制を整えたのです」
今年の3月に同船をデビューさせると、まずはマグロを狙い、早々に漁獲制限に到達。来週(※取材実施は4月)から10月ごろまでは、カツオを狙うと意気盛んだ。
カツオの漁獲高は、昨年のような例外はあるものの、減少傾向が続いている。それにもかかわらず、新船を導入してまで挑む理由は何だろうか?「確かにカツオ漁は将来有望とは言い切れません。しかし、マグロと違って漁獲制限もありません。カツオで大漁を目指すのは、クロマグロの大物を狙うのと同様にロマンがあるのです。そして、この船には海のロマンを追い求めるにふさわしい装備を万全に整えています。さあ、ご覧あれ!」
自信満々の北野さんに促されて操舵室に入ると、目の前に現れたのは最新式の航海計器群だ。レーダーやソナーも、ハイスペックタイプがずらりと並ぶ。レーダーは50kWと25kWの高出力のもの。ソナーは、設定の異なる水平探知画面を同時に2画面表示可能。10キロほど先を舞う海鳥のナブラを捉え、360度すべての魚群を探索するスキャニングソナーで魚の種類までズバリとわかる。
また、発電機や海水淡水化装置なども設置し、快適航行を可能とした。捕獲した大量のカツオを新鮮な状態で水揚げするには、3台の冷水機が威力を発揮。積載量も十分に余裕を持たせている。さらに、走行姿勢を最適に調整するためにトリムタブを設置。船の前後には操舵モニター室も搭載していて、3箇所での操船が可能。確かにこれ以上はないとも言える贅沢な艤装である。しかし、これだけの装備を取り付けると船体が重くなり、船足に影響が出るのでは? そんな疑問を察したかのように、北野さんはこう語る。「重量を物ともしない高トルク、波を切って進むハイスピード。ヤンマーエンジン6AYESP-GTMSはどちらも申し分ないどころか、補って余りあるポテンシャルを備えています。『ここだ!』と狙いを定めたポイントまで、あっという間に移動できるパワフルさは、さすがクラスナンバー1の高出力エンジンです。電子制御によって燃料効率も最大化されていて燃費の大幅な削減を達成。排出ガスも低減されており、環境保護に一役買える点も気に入っています。安定感のあるスムーズな走りには、横揺れ減揺装置であるジャイロユニット(GU175)の威力も大きいと思います。その魅力については、海のほうが詳しいかもしれません」
パワフルな機動力を生む主機関6AYESP-GTMS
操舵室には最新式のGPSやレーダー、ソナーなどハイスペックな機器がぎっしり搭載されている
さりげなく話題を振られたのが、ここ数年父親と一緒に漁へ出ている次男の海さん。爽やかな笑顔で次のように話してくれた。「海佑丸の前の船にもジャイロを後付けしており※、そのビフォー&アフターについては大きな違いを体感しています。その頃はマグロの一本釣に挑んでいたのですが、年間100日余りの洋上生活は過酷そのものでした。しかし、ジャイロを搭載後は海面が荒れていてもほとんど船は揺れず、ずいぶん体がラクになりましたね。新造船への搭載を検討した際は、迷わず賛成しました。海佑丸は船体もひとまわり大きくなり、ますます安定感がアップ。これから始まるカツオ漁にも、安全かつ快適に臨めるはずです」
海佑丸には親子の願いがこれでもかとばかりに詰め込まれている。そんな贅沢すぎる願いを実現したのが、有限会社福原マリン・ディーゼルである。「福原さんとは、前の船にジャイロを積み込んでもらった時からのお付き合いです。それまで漁船への搭載事例がほとんどなく、しかも後付けなのでスペースの確保に四苦八苦された様子。しかし、最後にはキッチリと収めていただきました」
北野さんが友人に紹介されて付き合いが始まったという福原マリン・ディーゼル。親切丁寧なサービスがモットーで、伊豆諸島の洋上でトラブルが発生した時には、その海域から最も近い鉄工所へ連絡するなどの迅速かつ的確なサービスを実践。さらなる信頼関係を構築し、新造船を任されるに至ったという。いちばん若い世代が三代目という共通点も、親近感を深めたことだろう。海佑丸を手掛けるにあたっては、まるで家族の船のように心を込めて作り込んでいったという。
航行力から漁獲力、収容力、経済力、環境適応力、サポート力までを備えた海佑丸。驚異的な戦闘力に熱い漁師魂を搭載した新造船は、目を見張る大物と常識を覆すような大漁を獲得するに違いない。
船体の揺れを大幅に軽減するジャイロGU175
小型高性能の海水淡水化装置