モジャコ漁船 海翔丸 様
住所 : 高知県須崎市浦ノ内
モジャコ漁船「海翔丸」電子制御エンジン 6GY135W-P.VC20
全長・幅(m) : 16.10 × 3.60
総トン数 : 8.5G/T
出典 : YANMAR mare vol.44(2023年10月発行)
住所 : 高知県須崎市浦ノ内
全長・幅(m) : 16.10 × 3.60
総トン数 : 8.5G/T
出典 : YANMAR mare vol.44(2023年10月発行)
ここ数年で一段とハイテク化が進んだとされる水産の現場。特に魚探やソナーは性能が高まり、漁獲前に魚種やサイズまで判別できる製品が話題をさらう。そんな中、まだまだ漁師の勘と経験がものをいう漁法もある。その代表格が「モジャコ漁」。流れ藻に身を潜めたモジャコ(ブリの稚魚)を網ですくいあげる伝統的な漁獲方法だ。今回は高知県の土佐湾を舞台に、曽祖父の代からモジャコ漁ひと筋という山崎さんを訪ねた。
「モジャコはブリの稚魚で、一匹当たりのサイズはわずか3~7センチほど。その姿は、魚探やソナーには映りません。そこが難しくて、また面白いところです」と話すのは四代目の山崎翔太さん。この漁のポイントは、いかにしてモジャコが多く棲みついている流れ藻を見つけるかにある。そのため山崎さんはつねにフライングブリッジに陣取り、同乗している3人の乗組員は代わるがわる船体後部のマストに上って、それこそ眼を皿のようにして洋上に漂う緑のじゅうたんを探す。
「藻が大きいほどモジャコもたくさん居そうですが、度が過ぎるとすくいあげることができません。それに、大きいからと言ってたくさん獲れるとは限りません。1メートルほどの藻にほとんど居ないこともあれば、30センチほどでも意外とたくさん(200~300匹!)居付いている場合も…」
これだけ聞くと運任せのようだが、じつはそうではない。黒潮の流れや水温の変化などの条件から、モジャコがたくさん棲んでいる藻が流れてきそうな位置を予測して移動を繰り返す。文字どおり網を張るわけである。
そんな山崎さんはふだん、深夜1時ごろに出漁する。その時間帯はとうぜん真っ暗で、目的のポイントに着いても流れ藻が目視できるわけではない。それでも自分の判断を信じて、港から数時間も離れた場所まで遠征することがある。東の空が白んできた頃、船の周りにたくさんの藻が浮かんでいると、それだけで嬉しくなるという。
さてここで、高知県におけるモジャコ漁の漁期や漁獲制限について記しておこう。2023年のモジャコ漁シーズンは3月から6月までの4か月以内、一隻当たりの漁獲量は10万匹前後と定められている。しかし水産資源保護の観点から、最終日を待たずして操業停止の指示が下る可能性もある。それなら解禁日から全力で漁に取り組み、早々に目標を達成してしまいたいところだが、事はそう単純ではない。
「モジャコは藻に棲みついて暮らしています。藻と一緒に移動しながら、少しずつ成長しているのです。つまり早い時期に獲るということは、それだけサイズが小さいということ。納入先である養殖業者に売れるサイズになるまでは、私たちが水槽や生け簀で育てなければならず、とうぜんエサ代がかさんでしまうのです」
漁が許された期間をギリギリまで活用するか、それとも早めに漁獲目標を達成してしまうか。いずれにしてもリスクを抱える厳しい漁と言えよう。
そんなモジャコ漁だが、効率よく行うための頼もしい味方が二つある。一つ目はモジャコ漁に挑む仲間たち。流れ藻があちこちに浮かんでいる海域を見つけると、無線で報告しあう紳士協定がある。しかし、特定の海域に浮かぶ藻には数に限りがあり、モタモタしていると時すでに遅しの場合も。そこでもう一つの味方の登場。ズバリ、ヤンマーエンジンである。
山崎さんが船主と船頭を兼ねる「海翔丸」のエンジンを換装したのは2022年の冬。もともと中古船であり、既存のエンジンに物足りなさを感じていた。では一体、どんなエンジンに載せ替えるべきか。悩んだ山崎さんの相談相手は、代々、付き合いがある吉野工作所の代表取締役、𠮷野寛招氏。マリーナを経営していることもあってエンジンに詳しい𠮷野氏が白羽の矢を立てたのは、ヤンマーの新型エンジン6GY135W-P.VC20仕様であった。
これまで積んでいたのがヤンマー製ではなく、換装するにも同じメーカーのエンジンを想定していた山崎さん。𠮷野氏から紹介されたヤンマーの新鋭に心惹かれながらも、費用面が気にかかる。しかしこの課題も、𠮷野氏が案内した水産庁の補助事業「漁船リース事業」を活用することによって見事に解決。こうして全国でも2例目となる搭載が決定したのである。
そして迎えた2023年のモジャコ漁解禁日。山崎さんは期待を大きく上回る高機能に感動すら覚えたと話す。「まずはスピードの速さに驚きました。もちろん試運転の際にも体感しましたが、出漁に際して活け間を満タンにしているのに加速性が全く変わらない。これが800馬力の底力かと感心しました。船速で言えば、以前の船では17.4ノットが限界だったところ、この船では24.3ノットにアップ。海上で見つけた流れ藻に向かって、飛びつかんばかりに向かっていくモジャコ漁にとって、この高速性能は本当に有難いですね。それでいて燃費性能も大幅にアップ。燃料代が3割ほど安くなり、『この調子でいくとエンジン代が浮く』なんて冗談が出るくらいです(笑)」
騒がしかったエンジン音も気にならないほど小さくなり、黒煙もまったく発生しない。エンジンの換装なので船体は全く同じなのだが、まるで別の船に乗り換えたかのような気分になり、モジャコ漁自体が新たな次元に突入したかのようだという。
現在、山崎家では船をもう1隻所有しており、2隻体制でモジャコ漁に臨んでいる。半漁半農の事業形態であることから、今はモジャコの養殖とキュウリの栽培に精を出す弟・拓也さんも、近い将来にはモジャコ漁に加わる予定。山崎ブラザースの噂が土佐湾を駆け巡る日も、そう遠くはないはずだ。
海翔丸の操舵室。数値情報を海図画面に表示させるGPS プロッタを搭載。
視野を広く確保できるよう、舵や計器類は中央付近に集中配置している。
有限会社吉野工作所
代表取締役 𠮷野 寛招氏、取締役 𠮷野 由美氏
ヨシノマリーナ 技術・サービス
北村 行世氏