農事組合法人 多良木のびる
代表理事組合長
深水 吉人様
- 地域 : 熊本県球磨郡
- 掲載年 : 2021年
- 作物・作業 : 水稲
- 密苗導入面積 : 45ha
農事組合法人 多良木のびる
代表理事組合長
日本三大急流の一つ、球磨川が流れる人吉盆地の一角、多良木町。ここで、米のブランド化を行っている農事組合法人多良木のびるは、設立から12年目となる。代表理事組合長の深水さんは2017年、ヤンマーの密苗技術が始動した当初から、いち早く大規模面積で密苗を導入された。
「慣行では育苗箱10a当たり20枚位使っていましたが、密苗だと6枚で済むという話を聞き、1/3に減るなら、うちもぜひ導入しようという話になりました。育苗箱が約12,000~13,000枚必要だったのが10,000枚近くいらなくなるので、コスト的にも人手不足解消にも非常に良いと思いました。何を差し置いてもすぐに飛びつきますよね。ヤンマーさんから力をいただいて、今に至っています」と振り返られた。実際に導入するにあたっては、宮崎県まで苗づくりなどの研修を受けに行かれたという。「田植機をはじめ密苗に必要な機材も、ヤンマーさんでいろいろ開発を進められているので、すんなり取り組むことができました」。
実は、密苗導入を決断された背景には、同組合では何としてもコストを下げなければならないという経営事情もあったそうだ。「うちの組合は12年前、地域の農業者の高齢化に伴う労働力不足と機械の過剰投資を解消するために集落の13名で設立しました。しかし発足から10年も経つと構成員の高齢化に伴い作業するのは、ほぼ私1人になりました。経営面積が広く、従業員を7名雇用したため人件費が増えました。それでも1人あたりの労働負担が大きかったこともあり、省力化とコスト削減を迫られていたんです。それで密苗はコストが削減できるということで、スムーズに取り組むことができました」。また「性格的にも、私はためらうようなタイプではなく、良いものは良いと思うタイプなんです。それにヤンマーの営業担当者の一生懸命さが伝わり、これはいけると思いました」と深水さんは笑顔だ。
現在、経営面積の全55㏊の内、WCSの10㏊を除いた45㏊で密苗を実施されている。「人員は苗運びに1人、田植機に1人と、2人で十分間に合います。田植機1台に30a分ほどの苗が載ってしまうので、要領良くやったら30aのほ場1枚くらいは途中で畦からの苗継ぎなく終えられます。ですから非常に作業効率が良いし、人手も少なくて良いし、トラックからすぐに田植機に苗を載せられるので非常にラクしています」とメリットを実感されている。
なにより密苗は、特別な技術がいらないことが良いという。
「私たちは、ヤンマーさんが(農業者や試験場と共同で)研究・開発したものに基づいて作業すればいいだけなので、簡単でしたよね。それが密苗の一番良い点だと思います」と感想を述べられた。収穫量はどうだったのだろうか。なにしろ昨年、同組合は暴れ川の異名を持つ球磨川が氾濫し、12㏊が冠水し水没した。そのうえ今年はウンカの被害も受けられたのだ。「それでも作況指数程度の収穫量を確保できましたね。普通では510~540kg/10aでしたが、うちの場合は450~500kg/10aの少し手前までは収穫できました」。
密苗を導入してから、苗づくりや管理面で工夫されていることについてうかがった。「育苗期間は20日くらいです。一番最初の5月20日頃に植える苗は、少し苗の伸びが足りないことがあるので、育苗ハウスで温度を確保しながら育苗をしています。その後の管理は慣行苗と同じですね。多少なりとも、密苗は籾の量が多いので徒長気味になる恐れがありますが、ローテーションを組んでつくっているので、ちょうどいい苗に育っています」。密苗は簡単だったと語る深水さん。今までの苗づくりと大差がないそうだ。
「播種量は乾籾300gで、3日おきに5㏊分ずつ播きます。そうすると耕うん、代かき、田植えもスムーズに流れていきます。苗床もそんなに広くなくていいし、徒長苗や老化苗の心配もなく進めています」。生育状況については、「慣行と比べると、密苗では根を何ミリか短い状態で植えるので、活着まで少し時間がかかります。でもあまり気づくほどではありません。それと植えた時点で苗が少ないように見えますが、後の水管理で補えるため、問題はありません」と、密苗栽培は順調のご様子。
ところで、密苗を導入したことに対して、従業員はどのように受け止めているのだろうか。
「いま、若い30代の従業員たちが農業に取り組んでくれるようになっています。密苗の栽培方法は既存の栽培方法と比べて非常に先進的で斬新なので、喜んでくれており、取り組みがいがあると思います」と期待を寄せる深水さん。
水田の全面積を密苗に切替えてから4年間、深水さんは研究と工夫を重ねて独自の栽培技術を確立されてきた。品種は九州で温暖化に強い品種として開発され、おいしさ・品質・収穫量の三拍子揃った「にこまる」で特別栽培米を主体に生産し、九州管内の大手スーパーなどに出荷されている。その傍ら、地元でおいしい米づくりを目指す農家にも呼び掛けて、国の地方創生事業の一環として、「たらぎ田んぼのチカラ研究会」を結成(会長は尾方伸一郎専務)。同研究会では、アドバイザーとして専門家を招き、その指導のもと密苗栽培でブランド米をつくり、東京のデパートでも贈答用として販売されている。
そして、このブランド米を毎年「九州のお米食味コンクール」に出品。4回目であった昨年は、九州各地百数十の市町村から集まった1000を超える検体の中から、多良木町は、自治体部門で3年連続優勝。個人総合部門でも最高金賞をはじめ金賞や特別賞などを研究会の仲間が受賞した。
九州一のおいしいお米として食味の良さと、それを生み出す栽培技術が高く評価されただけでなく、密苗で最高ランクの米をつくれることが証明され、深水さんは密苗の栽培にあらためて自信をもたれた。
深水さんに今後の展望をうかがった。「組合設立当初の経営面積拡大の目標は100haですが、若い人がどれぐらいうちの組合に興味を持ってくれるかによって考えていきたいですね。今年は県の補助事業も入れながら新たな機械の導入も考えて、面積の拡大ができないかなと思っています」。
また、密苗をまだ知らない農家さんには、「密苗にすると非常にラクなんですよ」とすすめてくださっているという。最後に、「うちの倉庫の中は、ほとんどがヤンマーさんの機械なんです。ヤンマーさんのお陰で一緒に成長していると感じています。私の一途な思いや考えに応えてくれるのがヤンマーさんだと思っています」とありがたいお言葉をいただいた。深水さんのお米づくりの情熱を継承しながら、若い人の力で、今後ますます組合や地域の農業が活性化するよう、これからも密苗を通じて貢献させていただきたい。
栽培のポイントやよくあるご質問など、初めて導入する方にもこれまで経験のある方にも役立つ情報をご紹介
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