株式会社鈴生
代表取締役社長
鈴木 貴博様
- 地域 : 静岡県静岡市
- 作物・作業 : レタス/枝豆/ブロッコリー
株式会社鈴生
代表取締役社長
近年、ブロッコリーの栄養価の高さが注目を集め、業務用加工ブロッコリーの消費は2008年からの10年間で約2.5倍に増えている。これに着目し、国産ブロッコリーの機械化に取り組み始めたのが、株式会社鈴生(すずなり)代表の鈴木さんだ。今回は、2020年に農水省が実施する「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」に挑戦されたお話をうかがった。
鈴木さんは、2001年にご両親が始めた個人農場を継がれた後、着実に事業を広げられていった。2008年に法人化すると優れた経営手腕をますます発揮され、外食企業や中食ベンダーを主要顧客に、生産から販売、物流、教育までグループ会社で運営する大型法人に成長されている。栽培規模はグループ全体で161haと広く、品目はレタス103ha、枝豆25ha、ブロッコリー10haなどだ。「自分たちが食べても美味しいと思える野菜をつくろう」という想いを掲げ、減農薬・有機栽培による特別栽培農作物にこだわっておられる。
レタス栽培では、モスフードサービスと共同出資する農場「モスファームすずなり」や、NEXCO中日本との共同出資による「中日本ファームすずなり株式会社」を立ち上げるなど、他社との協働にも積極的だ。同社が事業を広げられている理由は、「オーダーメイド野菜をつくる」という経営モデルにあると言える。注文を受けてから種を播く、播種前契約によって、必要な分だけ生産することに集中し、ロスを削減。たゆまぬ技術の向上と経営努力が、メーカーとしての農業経営を可能にしている。
本格的にブロッコリー栽培に取り組むきっかけとなったのは、自然災害の頻発だった。静岡県では毎年のように台風や豪雨が発生し、露地栽培農家に多大な被害を与えた。この自然による被害をリカバーするために、レタス以外の野菜栽培を検討しはじめ、着目したのが業務加工用ブロッコリーだ。昨今、ブロッコリーの消費量が世界的に増加しており、国内においても冷凍ブロッコリーの輸入量が年々増加している。一方で、生鮮ブロッコリーの輸入量は減少している。それは、ブロッコリーに含まれる成分に発がん性物質を抑制するというデータが世界的に発表されたことで、生鮮ブロッコリーは生産国での消費が進んだからだそうだ。
その市場背景を鑑みた鈴木さんは、このシェアを国産ブロッコリーで取りに行こうと、業務加工用ブロッコリーの栽培へと舵を切られた。ところがタイミング悪く、新型コロナウイルスが猛威を振るう。受け入れ予定だった外国人技能実習生4人の入国が遅れた上、休園・休校によってパート従業員の多くが勤務時間を減らさざるをえなくなった。輸入ブロッコリーに対抗するには、生産規模の拡大が不可欠にもかかわらず、人手不足に陥ってしまったのだ。そんな折、縁あってヤンマーとの出会いがあった。ヤンマーから「機械化を活用して、もっと業務用の国産ブロッコリーを拡大してみませんか」と声をかけられた鈴木さんは、2020年に、スマート農業実証プロジェクトに手をあげられた。
スマート農業で目指したことは、労働力の削減だ。そこで、作業時間を短縮するために、耕うんからうね立て、移植、収穫までを自動化する機械化一貫体系に取り組まれた。導入された機械は、自動操舵システム付トラクターYT357AJと、乗用全自動野菜移植機PW20R、ブロッコリー収穫機HB1250の3台だ。「YT357AJはハンドルを握らなくても真っ直ぐ走り、若手社員でも安定して作業できます。作業時間の削減目標は17%でしたが、72%も削減できました」、と大幅な省力化を実感された。
さらに「移植機においても、パートさんが乗っても真っ直ぐ走ることができ、安心して作業を任せられました」と感想を述べられた。特にブロッコリー収穫機においては、最も負担の大きい収穫作業が機械化できるようになったと喜ばれた。ブロッコリー収穫機を導入した効果をうかがうと、「従業員の手作業で抜き取り収穫をしていた時と比べると、作業時間が10a当たり17.5時間減り、58%も削減することができました。作業全体では65%の削減。労働時間と人件費で考えれば、圧倒的に省力化できています」と鈴木さん。社内のオペレーターからも機械の操作に熟練のテクニックが必要なくなり、「身体的な負担が少なくなった」という評価が多かったそうだ。
一方で、機械化による課題も見えてきた。これまでは、一定の大きさに生育したものを選んで収穫していたが、機械で一斉収穫をするとサイズに収穫ムラが出てしまうのだ。そこに気づいた鈴木さんは、からい※部分のみを小房にカットした「フローレット」の状態で販売を始めたり、からいが大きく育つ品種を選定したりと、いち早く対策に打って出た。また、この方法だけでは茎を捨てなければならないため、顧客である外食や中食産業との協働で、茎まで入れたレトルト商品の試作試験を現在進めておられる。これほどスピーディに対策できたのは、同社がオーダーメイドの野菜づくりで顧客と直接の信頼関係を築いてきたからだろう。
こうした課題に共に取り組む中で、鈴木さんからは「機械を導入した後も、ヤンマーさんはアドバイスをくれたり改善方法を考えてくれたり、とことん伴走支援してくれる。まだまだ課題はありますが、ヤンマーさんとなら、いずれ解消できると思っています」とうれしいお言葉をいただいた。
※ブロッコリーの株の先端にできるつぼみのこと
「今後、大規模産地では、機械化が不可欠になるでしょう。これは、種子、肥料、農薬、機械などの農業に関連する企業から、お客様までがひとつになってはじめて成り立つものだと感じています。これからも農作業の機械化が前進するよう、第2ステージへと前向きに取り組んでいきたいです」と鈴木さん。
最近では、静岡県での端境期のレタス生産を補うべく、「モスファームすずなり」を広島の安芸高田市に進出させた。こちらでも自動操舵システムなどを積極的に導入し、農作業の機械化に取り組んでおられる。新しい挑戦の今後について、鈴木さんは「ドローンを飛ばして、機械が自動的に動く夢の農業ができるんじゃないかと思っています」と新たな農業改革へと夢を膨らませておられる。
ブロッコリーの引き抜きから搬送、上葉・茎のカットを同時に処理し、省力化・効率化に貢献します。