有限会社岩石農産
代表取締役
岩石 学様
- 地域 : 佐賀県杵島郡白石町
- 掲載年 : 2020年
- 作物・作業 : 水稲/小麦/大豆/野菜その他
有限会社岩石農産
代表取締役
有限会社岩石農産は、佐賀県杵島郡で水稲26ha、麦30ha、大豆9haのほか、たまねぎ2ha、キャベツ2ha、ナタネ1haなどを、ご本人を含む正社員5名、パート1名の計6名で栽培しておられる。20歳で実家にて就農し、その後、跡を継がれて2006年に30歳で法人化。当時12haのほ場で米・麦・大豆の栽培を始めてから今年で14年目となる。
就農時から、最先端技術を使った農業に興味を持っておられた岩石さんは、農業者の集まりで岡山県岡山市の株式会社夢ファーム代表取締役の奥山孝明さん(トンボプラスvol.9掲載)と知り合う。親交を深めるうちに、「奥山さんのところは、ウチと同じ少人数なのに、なぜウチより経営面積が多いんだろう…」と、思うようになった。そして、夢ファームでの研修などで話を聞くうちに、ポイントは最先端技術の活用だと知り、さっそくそのノウハウを、自社の農業経営に取り入れていった。そのひとつが、10 年ほど前から導入されているGNSSガイダンスシステムだ。
ただ、当時導入したシステムは誤差が大きく、思ったほど楽にはならなかっため、その後、様々なメーカーが推奨するガイダンスシステムや自動操舵システムを試してきた。岩石さんは、「大きなほ場で麦を真っ直ぐに播種するには、ガイダンスシステムのモニター画面を見ながら、後ろの作業機の動きも気にしなければならない。神経を使って作業をするので、ほんとうに疲れるんです。なので、せめて直線だけでも自動操舵にしたかった」と、振り返る。そして2019年に、同社のほ場でヤンマーの実演会を開催。麦の播種作業で自動操舵の試乗を行い、YTとの相性の良さなどを実感されて、2020年、ヤンマーが販売提携している(株)ニコントリンブル社の自動操舵システムを正式に導入された。
岩石さんがここまで自動操舵システムにこだわるのは、麦播種作業の〈労力軽減〉を図るためだ。当地では、麦の播種と、たまねぎの定植時期が重なり、それを少人数でこなさなければならない。そのため、たまねぎの定植は他の従業員に任せて、麦の播種を岩石さんが一人で負うことになる。なるべく早く終えて、従業員の手伝いやほかの仕事もしたい。そんな播種作業を少しでも楽に、効率的に、しかも高精度に行うには、自動操舵システムは欠かせない技術なのだ。
岩石さんに、自動操舵システムの導入効果をうかがうと、「そりゃ、自動操舵を導入してからはものすごく楽になりましたよ!」と、その言葉に力がこもっている。実際にご自身で麦の播種作業をしておられるため、身をもって効果を実感されているのだ。
では、実際の仕上がりはどうだろう。「とても良いですよ!以前使っていたガイダンスシステムは、誤差が50cmぐらいはありましたが、今はRTK※1測位で、誤差がわずか2~3cm程度になり、真っ直ぐに播種できます」と、納得のお答え。導入の決め手となったのが、この精度の高さだという。岩石さんは「誤差が少なく真っ直ぐ播種できると、後作業の管理作業や収穫作業も効率良くできる。始めが良ければ、最後まで上手くいく。そして効率が上がるんです」と、笑う。
同システムは、受信機や自動操舵ハンドルが取り外し可能なため、他の機械に取付けて汎用利用もできるのでは?と水を向けてみた。すると意外な答えが返ってきた。
「このシステムは麦の播種専用機にしたいですね。ただ今回の導入で、自分は自動操舵の良さを実感できたので、将来的には数を増やして、従業員の仕事を楽にさせてやりたい」。従業員の労力軽減も忘れてはいない。実は、そのためもあってか、いま同社では、施設内にRTKの基地局を独自に設置中とのことだ。また、同システムは夜間作業にも対応しているが、この点はどうだろう。
「麦の播種は一人で作業をするので、徹夜をすることもありますけど、自動操舵システムを使えば、夜間でも安心です。一辺が100mのほ場が(夜間でも)真っ直ぐ播種できるんです」と、岩石さん。夜間での高精度作業についても太鼓判を押していただいた。
※1:RTK(Real Time Kinematic)とは地上に設置された基準局から発信される補正情報をリアルタイムで受信することで、測位精度を高めるシステムのことです。
このように、新しいことに前向きな岩石さんに今後のビジョンをうかがった。
「私自身が農業委員をしていることもあるんですが、いま地域の担い手や集落営農、役場などに声をかけて、農地集積の協議会を立ちあげようとしているんです。話し合いの場はできているので、これを地域のためにうまく進めていきたい。それから会社的には、若い人たちも農業に興味を持ってもらえるように、田植機やコンバインにも自動操舵などのスマート化を進めて、効率化や労力軽減を進めていきたい。まぁ、どちらも50歳までの目標ですけど」と、少し照れくさそうに笑う。地域的にも企業的にも、頼もしいビジョンをうかがうことができた。
実際に同社は、前から若者に農業の魅力を伝えるために、農大生や新人県職員などを対象として、農業全般、また自動操舵システムやドローンなどに特化した研修生を受け入れている。岩石さんはすでに30歳までの目標であった法人化を実現し、自社のためにも、地域のためにも、いま精力的に動いている。これからも次の目標、その次へと、走り続けてほしい。
経験と勘で行っていた作業が、誰でも簡単に、正確に