有限会社沼南ファーム
代表
橋本 英介様
- 地域 : 千葉県柏市
- 作物・作業 : 水稲/作業受託
- 掲載年 : 2021年
- 密苗導入面積 : 110ha
有限会社沼南ファーム
代表
利根川水系の自然が豊かな手賀沼の南で120haの大規模な水稲栽培を行っておられる沼南ファームの橋本さん。高齢化が進む地域の状況から、いずれ農地の集約化が進むと予測し、30年前にいち早く法人化された。経営の効率化を目指して、新しい栽培技術を積極的に試しながら、10haだった農地を今では120haへと規模拡大してこられた。しかし面積が増えると、その分、苗づくりの負担が増大した。年々面積の増加が加速するにつれ、「稲作で一番大変なのは苗づくり。その労力を何とかできないだろうか」と解決策を探しておられたという。
そんな中、2017年に農家仲間が参加する全国1000人以上のSNSグループから「密苗はいい」という情報を得られ、関心を深められたそうだ。なかでも三重県で大規模に経営されている農家さんが、一度に100haを密苗に変えて成功されたという事例から「自分もチャレンジしてみよう」と思われた。それが密苗導入の始まりとなった。
早速、同年と翌2018年の2年間、ヤンマーの協力を得て1haずつトライアルを実施。3年目となる2019年に「よし、これならいける。労力とコスト削減ができそうだ」と確信され、8条植えの密苗田植機を2台購入し、110haを一気に密苗に切替えられた。稲の品種も、メインのコシヒカリはもちろん、早生から晩生、もち米まで全て密苗で栽培されている。
これまで慣行栽培では、10a当たり16枚の苗箱をつくっておられたが、密苗では10a当たり10枚に減らして取り組まれた。「10a当たり6枚カットするだけで100㏊に換算すると総数で6,000枚の削減になります。その6,000枚分の苗をつくらなくていいし、ハウスも6,000枚分が要らなくなります。大量に買っていた育苗培土も購入しなくて済みます。ただ単純に苗箱の枚数が減るだけでなく、苗づくりにかかるその他の経費が、とても削減できたと実感しています」と笑顔の橋本さん。
また、ハウスは育苗用に1カ月間使うので、その間の水やりの労力やハウスの維持管理のコスト削減も大きい、と付け加える。さらに田植え時の苗の運搬でも、労働時間の削減につながっており、これも密苗の大きなメリットだと語る。というのも同社が米づくりを行うエリアは、柏市内全域を中心に周辺の市町にもまたがっている。田植えの時期は社員が16,000枚の苗箱をハウスからほ場まで運ぶのに軽トラック3台がフル稼働していた。「これまで遠いほ場だと片道約40分かけて軽トラに苗を積んでピストン輸送をしていました。それが密苗だと1回ですみ、輸送の回数が減ったことで作業の効率化が図れました。また、運搬時のガソリン代も安くなってコスト軽減にもなりましたよ」と橋本さん。社員からも「明らかにラクになった!」という声が届いているそうだ。
橋本さんが、育苗時に工夫されていることをうかがった。「最も気を付けていることは、ムレ苗の防止で、風通しをよくすることです。密苗は厚播きをするので苗がムレやすいため、ハウスを通常のサイド巻き上げタイプではなく、屋根も全部開けられるハウスに変えました。初期生育の間は育苗ハウスとして使い、ある程度生育が揃ったら外気温と同じになるように屋根をフルオープンにしてムレ苗を防いでいます」。
また植付け時には、「密苗でも初期生育が大事」と考え、側条施肥を実施。肥料は同地域の農家でよく使われているペースト状の液肥を使用されている。「ペースト肥料は粒状肥料より速効性があり、直接苗にガツンと効きます。密苗との相性が良く、うまくマッチングしていると思います」と、ペースト肥料の肥効効果で苗立ちや、生育が良かったことに満足されている。
密苗田植機についてはどうだったのだろうか。「ヤンマーさんの田植機を使うのは初めてでしたが、植付精度が非常に良いことにびっくりしています。密苗専用の幅狭爪の効果もあって、植付姿勢や活着も良く、機械の精度が高いと思いました」と評価いただけた。
今年は天候不順で特に7月は晴れの日が1日か2日しかなく、生育への影響を心配されたが、「しっかりと管理すれば、収量増を見込めたほ場もあり、密苗にすることで減収することはありえません」とおっしゃるように、初期生育がよかったのでその後も順調に生育し、収量も慣行栽培とそれほど変わらなかったそうだ。
「密苗で10a当たりの苗箱が10枚ですと、植わっているという感じはありますし、見た目も慣行栽培とさほど変わりません。これが5枚とか6枚まで減らすと、苗の数も少なくなるので多少違ってくるかもしれませんが、私はあまり気にしません。私自身、湛水直播や乾田直播を経験しているので、直播の苗立ちと比べると密苗はしっかり発芽した状態の苗を植付けるので安心感があります。なにより、春先の作業が楽になり、コスト削減にも大きく貢献しています。密苗を導入したことは、経営のトータル的な観点から見れば数倍プラスになっています。今後、面積が増えても十分対応していけると思います」と、嬉しいお言葉をいただけた。
急激な面積拡大に素早く対応できるよう日々情報収集や新たな栽培技術を磨いておられる橋本さん。耕作放棄地を対象にリモートセンシングでほ場の状態を調査し、データをもとに可変施肥による土壌改善を行う取り組みも始められている。密苗が橋本さんのお役に立てる機会はまだまだありそうだ。
栽培のポイントやよくあるご質問など、初めて導入する方にもこれまで経験のある方にも役立つ情報をご紹介
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