有限会社営農ワイエムアイ
代表理事
山﨑 一正様
- 地域 : 富山県富山市
- 掲載年 : 2017年
- 作物・作業 : 水稲(約100ha) / 大豆・大麦(裏作もあわせて20ha) / 加工用キャベツ・ネギ・ミニはくさい・小松菜・ほうれん草など(1.5a)
- 密苗実証面積 : 1ha
- その他 : 慣行栽培のほかに、乾田直播栽培
有限会社営農ワイエムアイ
代表理事
有限会社営農ワイエムアイは、富山県富山市の中核農家として地域の農地を預かり、約100haの稲作をメインにこだわりの農産物を生産・販売している。同社は、山﨑さんの考えに基づき土づくりを重視している。秋には稲わらや牛糞、豚糞などの有機物を、また春には重過石入りカキ鉄ケイ酸(※)を投入。手間を惜しまずつくった肥沃な土壌で、農薬も極力減らした、安全で安心に配慮した農業を推進している。
そんな同社が困っていたのが、苗箱枚数の多さだ。ご多聞に漏れず、こだわりの栽培方法に手間がかかるため、できるところで省力化したい。現在も、苗箱が約12,000枚しか入らないハウスを2回転させて、約21,000枚をつくっている。田植え時の苗箱使用枚数は20~21枚/10aだ。常になんとかしたいと思っていたところへ、ヤンマーから『少しでもいいので…』と、密苗の試験の話を持ち込まれたのだ。
そのとき『苗箱が1/2~1/3ぐらいに減りますよ』と言われ、試験的に取り組むことにした。同社では同じ理由から、本年度から乾田直播も導入している。「とにかく春作業では、どうしても苗づくりよりも耕起作業のほうが負けてしまうんで、それをなんとかしたいんです」と、現状を嘆く。密苗がお役に立てれば幸いだ。
取り組みがはじまったところで、これまでさまざまな経験をしてこられた山﨑さんも、密苗の播種量の多さには面食らったようだ。「5月15~20日に田植えをする想定で逆算して播種しました。慣行では籾数を100g/枚ぐらい播くんです。ところが密苗はその2~3倍弱ということで…悩みました。で結局、播種機をめいっぱい回転させたら何とかなりそうだったので、それで乗り切りました」と、笑う。部分的に籾の少ないところが多少あったため、覆土前に少し手で追い播きすることでカバーできたという。
播種後の育苗では特に問題点はなかったというものの「慣行より播種量が多いので、生育中にムレ苗にならないか心配したんですけど、苗は少し若かったんですけど、播種後、約1週間でマット形成ができていました。20日もあればいい感じで育つかなと思いました」。しかし育苗をただ見ていたわけではない。伸びすぎの懸念から、育苗の際はハウスの中よりも温度が上がりにくい入り口付近に苗箱を並べ替えるなどの工夫をしたという。こだわり派の山﨑さんらしいエピソードだ。
密苗初体験の山﨑さん、当初はその効果がどれほどのものか分からず不安だったと言うが、取り組んでみて、その良さをご実感されたようだ。「まずいちばん良いのが苗箱の枚数が少なかったということですね。当初、ヤンマーさんからは『60株/坪なら、10枚弱/10aで終わるよ』と言われたんですが、県の指導の70株/坪で植えたんです。それでも慣行で20~21枚/10a が11~12枚/10aに減ったので、最終的には、当初の面積より少し多めに試験をすることができました」。さらに詳しくうかがうと「本来は30aほ場1筆に苗箱を60枚前後を使うんで、ダンプ2台分持って行くと、30aほ場2筆分が植えられるんです。でも今回はダンプ1台苗箱100枚で、同じ規模のほ場を3筆植えても、まだ苗に余裕がありました。なので4筆目の途中まで密苗を植えて、慣行と密苗の比較をする意味で、残りのスペースには慣行苗を植えました」。密苗の省力効果もさることながら、山﨑さんはほんとうに勉強熱心だ。
もちろん移植スピードについても「止まっている時間が少ないし、補助者も頻繁に苗を供給しなくてもいいので、田植えの時間はかなり短縮されました」と、高評価。またその言葉を裏付けるように、播種から移植の間に、補助作業におけるメリットについても、次のように説明してくれた。「播種のときは籾の量が多いので、並べるときや移動するときに慣行に比べて少し重たいんです。ただその分、播種枚数が半分弱で終わるので、例えば機械が覆土の部分を荒らしたら、そこを手で慣らすとか、補助者の方が余裕をもって作業ができたと思います」と、補助作業にも明確なメリットがあることを教えてくれた。
最後に山﨑さんに、密苗について思う所を語っていただいた。
「今は、省力化だけでなくコスト削減が大きな課題です。コストというと、すぐ材料費や資材費のことを考えますが、いちばん大きいのが人件費。(密苗は)その人件費を下げられるという点で、非常にメリットが大きいと思います。ウチでは、1組の田植え班が3~4名なら、8条植え田植機で1日8筆のほ場を植えるんですが、密苗だと2人だけでも余裕で8筆のほ場を植えられるんじゃないかな?ただ面積との兼ね合いがあって、すべてを密苗にするわけにはいかないんで、そのあたりを上手く組み合わせていったら、省力化につながると思います」。そしてもっと現場レベルで言えば「田植えの担当を決めるには、田植機の運転や積み下ろし、作業の慣れや適性、スキルなど個人差があって簡単ではありません。そんなときにダンプ1台・作業者2人で済むのは魅力です。仮に10枚/10aで済むなら、苗を120枚積んでいくと1.2ha植えられる。それに苗つぎが少ない分時間的ロスも少なくて済む。さらに4人が2人になればもっと助かる」。なるほど、経営者からすれば良いことだらけだ。
加えて同社は、栽培面積が約100haの規模からすると、田植機所有台数が2~3台と少なく、消耗が激しい。実際、ほとんど2台で消化して3台目は予備扱いなので、1台で40~50ha使うという。「ほんとうに機械の消耗が激しくて…だからできれば密苗を組込んで流れを変えていきたい」。同社だけでなく、このような課題を抱える法人や農業者は少なくないはず。密苗が、そんな方々の救いになればうれしい。
今回の取り組みを終えた山﨑さん、密苗に対する総合的な評価はどうだろう。
「できれば密苗を順次取り入れていきたいと思っています。ただ最長で20日という育苗期間を守らないとムレ苗になりやすい、今回密苗を植えたときは風が少なかったので、実際の耐候性が分からない、などの課題はあるんですが…、しかし何よりも作業がたいへん早く済むというメリットが大きいので、慣行とあわせてやってはどうかと考えています。あと、今回はコシヒカリでやりましたが、ほかの品種ではどうかというのも検討課題だと思います」。課題も認めつつ、良いものは良いと認める。山﨑さんらしいコメントだ。もちろん密苗自体、普及しはじめたばかりであること、また今回の取り組みが試験であることを考慮すると、密苗のノウハウはこれからもどんどん進化するはずだし、同社ならではの密苗もこれから確立されていくに違いない。
密苗に今後の可能性を見出してくれた山﨑さんは、取材の最後まで、農業に対してひたむきな姿勢を崩さなかった。
栽培のポイントやよくあるご質問など、初めて導入する方にもこれまで経験のある方にも役立つ情報をご紹介
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