業務野菜推進担当
能海 翔 様
- 地域 : 岡山県笠岡市
- 掲載年 : 2024年
- 作物・作業 : キャベツ(60ha)/タマネギ(60ha)
岡山県の南西部に位置する笠岡市は、瀬戸内気候に恵まれた農業の好適地。なかでも農業用地として開拓された笠岡湾干拓地では、整備された大規模なほ場を活かした農業が盛んに行われている。今回、取材に訪れた有限会社エーアンドエスも大規模農業に取り組んでおられ、業務用野菜のキャベツと玉ねぎを60haずつ、計120haの広大なほ場を管理されている。
同社では2020年から農林水産省が実施する「スマート農業実証プロジェクト」に参画。その取り組みの一環として、ヤンマーのロボットトラクター(以下、ロボトラ®)YT5113Aを導入し、作業効率の向上や省力化を目指しておられる。また同社ではJGAP認証を取得し、食の安全はもちろんのこと、農業従事者の労働安全にも注力。ロボトラ®導入によって農作業や労働環境にどのような効果が得られたのか、プロジェクト担当の能海翔さんに実践例を交えながら話しをお聞きした。
「2003年の設立以来、順調に業績を伸ばし規模拡大を行ってきました。しかし、事業拡大に伴い雇用の確保や人材育成が経営課題に。そこで、オペレーターの技術がいらず、自動で作業してくれるロボトラ®を導入しました」と能海さん。現在、正社員15名、パート60名が勤務するが、主力で動く正社員は20代が中心で、農業機械操作などの経験不足に悩まれていたそうだ。
「当社ではロボトラ®を使うのは、1年目や2年目のスタッフがほとんどです。有人トラクターとロボトラ®の2台を活用することで、経験の浅い若手でもベテランと変わらないばかりか、1.5~1.8倍の仕事量をこなせるようになりました」と、生産性の向上を実感してくださっている。
ロボトラ®で行うのは耕うん作業が主で、パワーハローやグランドハローによる砕土や整地などだ。「まず1つ目が、ロボトラ®にパワーハローを付けて粗く耕し、後ろからグランドハローを付けた有人トラクターで追いかけるパターン。2つ目が、有人トラクターにスタブルカルチを付けて残渣を処理し、パワーハローもしくはグランドハローを付けたロボトラ®で追いかけるパターンで使用します」と能海さん。
特にパターン①のパワーハローとグランドハローの組み合わせは作業機の幅が同じ3mということもあり、同じほ場で同時に動かしても干渉せずにスムーズに作業できているそうだ。
一方、パターン②のスタブルカルチは作業機の幅が2.5mなので、パワーハローと異なる。このように作業機の幅が違う場合は、10haのほ場であれば1haほど作業してから時間差で後追いするなど、作業機の幅などに応じた連携作業を行っておられる。
「現時点では、ロボトラ®での無人作業はパワーハローとグランドハローの2つのみですが、今後はもっと増やしていく予定です。まずは、1.5~2km/hと低速作業のためオペレーターの負担が大きい、アップカットロータリーの作業をロボトラ®でやりたいと考えています。これが無人でできれば負担を大幅に削減できます」と、ロボトラ®の活躍に期待してくださっている。
ロボトラ®の効果については、「前述した通り、ロボトラ®と有人トラクターの作業を組み合わせることで、若手でも1人で1.5~1.8倍の仕事量をこなせるようになりました。2人必要だった作業が1人でできるので、人件費の削減にもなり一番のメリットだと感じています。また、労働時間に換算すると1日あたり4~5時間は空く計算です」と、1人で2つの作業を同時にこなすことで、生産性が向上したと手ごたえを感じておられる。
続けて、空いた時間の活用方法をお聞きすると、「緑肥栽培や土壌診断など、土壌改善に時間を使えるようになりました。土が良くなることで作物の根張りが良くなり、品質向上にもつながっています」と、生産物の品質向上にもロボトラ®が貢献しているようだ。
また、ロボトラ®の性能にも触れ、「自動でまっすぐ進み、旋回までしてくれることに感動しました。無人でここまでできるのかと。機械が計算した最も効率の良い旋回は、操作している私たちも勉強になりますね」と大絶賛。続けて、「何より、オペレーターにかかるストレスが全然違います。まっすぐ走らせながら、作業機や土の状態を確認するのはかなりの負担です。しかし、ロボトラ®なら座っているだけか、近くで動きを監視するだけでいいのでラクですね」と、オペレーターの負担が大幅に軽減されたと喜んでくださっている。さらに、ロボトラ®は技術が不要なので新人でも難なく運転でき、課題だった人材育成の面でも貢献できているようだ。
今後はロボトラ®とITツールの連携にも力を入れていきたいそうで、「ほ場管理ができるアプリとロボトラ®のデータを連携させ、ほ場をデータ化して最適な土壌改良を効率良く行うのが目下の課題です。たとえば、ロボトラ®は作業状況のデータを蓄積できるので、作業速度が遅いほ場は土壌の状態が悪い傾向にあるなど、判断材料の一つにすることが可能。これまで経験やカンに頼っていた感覚的な部分を、数値化することでより効率的な作業に役立てたいです」と、意気込みを語ってくださいました。
トラクターに乗り込まなくても自動で作業ができる。