酪農飼料部 主任研究員
黒木 邦彦 様
- 地域 : 宮崎県西諸県郡
- 掲載年 : 2024年
- 作物・作業 : 飼料用トウモロコシ(8ha)/ソルガム(4ha)/イタリアンライグラス(16ha)
宮崎県西諸県郡で畜産物の生産技術などの、研究・開発を行う宮崎県畜産試験場。同試験場では場内で飼育している牛に給仕する飼料用作物を栽培されており、その栽培作業の中でロボットトラクター(以下、ロボトラ®)を活用いただいている。
ロボトラ®導入の経緯や活用方法について、酪農飼料部の黒木邦彦さんにお聞きした。「近年の畜産経営は1軒あたりの牛の畜産頭数が増加し、どんどん規模を拡大している状況です。そのため必要となる飼料が増え、より広いほ場を作業しなくてはいけなくなり、人手不足はこれまで以上に深刻化しています」と、畜産農家の現状を話してくださった。その課題解決の糸口にと、3年前からロボトラ®や農業用ドローンを活用した、スマート農機の試験に取り組まれている。
どのような作業にロボトラ®を使用されているのかお聞きすると、「場内で栽培を行っている、トウモロコシ8ha、ソルガム4ha、イタリアンライグラス16haの耕うん・施肥・播種・収穫の作業にロボトラ®を組み入れて、省力化を図る試験を行っています」と黒木さん。ロボトラ®で作業する際は、すべて無人で作業する“ロボットトラクターモード”で実行し、その作業性を検証しておられるそうだ。「耕うんなどのシンプルな作業ができるのは分かっていましたが、飼料生産にはいろいろな作業があり、使用する作業機もさまざま。どの作業機と相性が良く、どんな効果が得られるのか、その洗い出しから始めました」と振り返る。試験の結果、先述の作業で効率化や省力化が実証されたと語ってくださった。
「たとえば、通常のトウモロコシの収穫では1台のトラクターがコーンハーベスタで刈り取り、その後ろから細断型ロールベーラを装着したトラクターで追尾するのでオペレーターが2人必要でした。しかし、ロボトラ®なら自動で刈り取りをしてくれるので、1人のオペレーターがそれを監視しながら細断型ロールベーラで作業することが可能。つまり、1人で2つの作業を同時にこなすことができ、2人必要だった作業が1人でできるようになりました」と黒木さん。有人トラクターとロボトラ®を組み合わせ、複数の作業を同時に行える、ロボトラ®ならではのメリットを実感してくださっているようだ。このほか、耕うん作業では有人トラクターとロボトラ®で同時に作業し、効率化を図る協調作業。ロボトラ®による播種と有人トラクターによる鎮圧を組み合わせた複合作業など、作業内容に応じた活用を実践しておられる。
「ロボトラ®による播種作業と有人トラクターによる鎮圧作業を組み合わせた試験では、それぞれの作業を別々にオペレーターが行った場合よりも、1haあたり約11分の作業時間が短縮されました。割合にして18%の総作業時間の短縮が図られたという結果が出ております」。
「播種と鎮圧作業だけでこれだけの結果がでましたので、作業の組み合わせ次第でもっと省力化やコスト削減ができると考えています」。
さらに、多くの農家が抱える繁忙期の人手不足の解決にもなると黒木さん。「繁忙期だけ人手が欲しくても、そう都合よく集まるものではありません。それならと通年働くスタッフを雇用するにも、年間300万~400万円のお金が必要です。ロボトラ®導入で得られる費用対効果は大きいのではないでしょうか」と、雇用に頭を抱える農家にとって、大きな効果が期待できると嬉しいお言葉をいただいた。
さらに、ロボトラ®の直進性の良さにも触れ、「ジェットシーダーでトウモロコシの播種作業を行うのですが、種を播いた端と端を水糸で結んで中央からのズレを計測してみたんです。すると、熟練オペレーターと変わらないか、それ以上の結果となりました」と太鼓判を押してくださった。加えて、「登録している作業経路の通りにまっすぐ正確に作業してくれるので、農薬散布の際にも散布漏れや過剰散布がありません。品質の向上など目に見えない部分にも、大きなメリットがあると感じています」と、手ごたえを感じてくださっているようだ。「ほ場の約9割を自動で作業できるのにも驚きました。実際にあぜ際の1周分だけを残して、あとは自動で作業してくれるのでラクですね。すべての作業においてオペレーターの腕の差が出ないのも魅力です」
「人手が足りず生産能力が限界にきている家族経営の農家や、人材育成に課題を抱える大規模農家。それから、飼料生産を行うコントラクターにぜひお勧めしたいです」と黒木さん。その理由をお聞きすると「ロボトラ®の活用によって雇用せずに経営規模の拡大が叶うのと、オペレーターの技術がいらないので育成時間がかからず、雇用する人の入れ替わりがあった時も作業の移行がスムーズになると思います。規模が大きな農家ほど、そのメリットは絶大です」
最後に、今後の取り組みについてお聞きした。「この3年間、どんな作業ができ、どう組み合わせられるかを検証してきました。ロボトラ®に適している作業は分かりましたので、今後は作業の組み合わせによって得られる、省力化や労働時間の削減効果を探っていきます。それもまた、人件費などの数字にして、ロボトラ®導入のメリットを多くの人にお伝えしたいと考えています」と黒木さん。ロボトラ®が畜産農家の営農にどう貢献できるか、我々も結果が楽しみだ。
トラクターに乗り込まなくても自動で作業ができる。