代表取締役
田中 康仁様
- 地域 : 滋賀県長浜市
- 掲載年 : 2023年
- 作物・作業 : 米(35ha)/大豆(50ha)/麦(40ha)/たまねぎ(15ha)/ ブロッコリー(3ha)/子実コーン(3ha)/イチゴ3棟
滋賀県長浜市で積極的に機械化に取り組み、作業環境の改善と経営拡大に邁進する株式会社TPF(以下、同社)。
全てのトラクターに自動操舵システムを導入し、畑作を省力化されている同社を訪問して、効果のほどをうかがった。
琵琶湖の北東岸に位置する滋賀県長浜市に広大なほ場を所有する同社。事務所を訪ねると、代表取締役である田中康仁さんの快活な声に迎えられた。田中さんはお父様のもとで就農し、2017年に事業を継承すると共に法人化され、同時期から機械化と規模拡大を進め、現在では栽培規模を事業継承当時のおよそ3倍に拡大されている。ほ場にはヤンマートラクター3台をはじめ、ブロードキャスタやブームスプレーヤなど、多くの作業機や専用機が並ぶ。また所有しているトラクターには、ニコン・トリンブルやトプコンといった自動操舵システムを装着されている。
「地元のヤンマーさんから情報を集めるなどして、思い切った機械化を進めてきました。自動操舵システムの導入時も、後からのアップグレードや1台の自動操舵システムを使い回すのはかえってコストがかかると考え、初めから高精度のものを、必要な台数だけ導入しました」と田中さん。大胆な経営判断に人柄がうかがえるが、事業継承後、高性能の機械を次々と導入して機械化を進めることに、不安や課題はなかっただろうか。「課題はやはり費用でした。父から事業を継いだ当時は立て直しが急務でしたが、経営は厳しく余裕はありませんでした。そんな中で活用したのが様々な補助金でした。農林水産省のホームページを頻繁に確認し、『産地生産基盤パワーアップ事業』の支援も受けました」。
物事に取り組むなら「0か100か」だという田中さん。現在は畑作7、稲作3の割合で栽培されているが、これは収益性を考えて、ご先代の頃の割合をほぼ逆転されたものだという。常に革新を続ける果断な経営判断のもとで、自動操舵システムをどう評価されているかをうかがった。
田中さんが自動操舵システムを導入されたきっかけは、地元農協の依頼でたまねぎ栽培を始めるに当たって、精度の高いうね立てが必要になったためだ。「それまで使用していた機械では理想的なうねを立てられず、思い切って新調することに決めました。どうせなら抜本的に機械を見直そうと考え、まずはYT5113Aに高精度±2~3cmのRTKアップグレードをした自動操舵システムを導入し、加えて1.5mのうねを同時に2つ立てたかったので3m幅のロータリーと、1.5m×2連仕様のうね立て機も備えました。さらに施肥機も付けています。妥協なしに性能を突き詰めたおかげで、作業時間は3分の1ほどと短縮され、1日に2haを超える作業ができるようになりました。精度が高いことに加えて、前方を気にせず、後方を確認しながら作業できるので、仕上がりは完璧ですね」と田中さん。実際にうね立てを見学させていただくと、作業中はほぼ後方のうねの仕上がりを確認するのみで、前方へ向き直る動作は停止時のみだった。
「自動操舵システムの導入前は、前を向いてハンドルを操作しつつ、頻繁に振り返ってうねの仕上がりを確認する必要があり、この振り返りの動作が結構な疲労になっていました。今はハンドルを持たずに、後ろのうねの仕上がりを見ていれば済むので、疲れもかなり軽くなりました」と、作業を終えた田中さんは満足げなご様子だ。加えて、操作が非常に簡単なため、時間をかけた講習や教育が要らず、初心者が作業をしても乱れのないまっすぐなうねに仕上がる点も高く評価されている。
「自動操舵システムは複数の作業に恩恵があるのもうれしいですね。ブロードキャスタやブームスプレーヤでの作業にも使用していますが、同じメーカーの自動操舵システム同士なら、うね立てで得た走行ラインのデータを共有できるので、薬剤散布などの後作業がとてもスムーズです。今後はさらに、あぜ塗りでも試してみる予定です」。
「当社では勤務時間を8時から遅くとも18時までとして、日曜とお盆、年末年始は作業状況によらず休日としています。従業員はパートを含めて8名ですが、現在の規模でこの条件を守っていられるのも、機械化あってのことですね」と田中さん。深刻化する担い手不足のもと、いかに作業の効率を高め、働きやすい環境をつくるかに心を砕く。
「また、仕事には楽しみがなければといつも思っています。うちは僕も含めて機械好きばかりで、前職でも農業者だった転職組の社員がいますが、自動操舵システムでの作業を任せたところ、『こんな素晴らしいものがあるのか』と感動して、せっせとうねを立てていました」。
昨年には薬剤散布を手掛けるSKYLIG株式会社を設立し、産業用無人ヘリコプターとドローンも保有されている田中さん。機械好きのほどがうかがえるが、機械化推進の根底にあるのは、好奇心や効率の追求ばかりではないようだ。
「SKYLIGでは主に近隣農家の薬剤散布を代行しています。ヘリやドローンを農家がそれぞれで用意するのは難しいので、地域で農業を続けていくための一助になればと思っています。今後、担い手不足の中で農業を続けていくには、例えば地域で作業機を共有するようなことも必要になるのかなと考えています」。
田中さんのまなざしは、自社だけでなく地域農業の将来にも向いている。先代から受け継いだ土地で、今後もさらに存在感を高めていかれるだろう。
経験と勘で行っていた作業が、誰でも簡単に、正確に。