取締役
中野 あずさ様
- 地域 : 千葉県野田市
- 掲載年 : 2022年
- 作物・作業 : さつまいも(約1.5 ha)
千葉県野田市で建設関連事業を営む誠豊開発株式会社(以下、同社)は、2021年より新たに農業事業に参入した。
農業未経験から事業を立ち上げ、機械化を積極的に推進しながらさつまいもの無農薬栽培に取り組む農業事業責任者の中野あずささんに、就農の経緯や事業への想いをうかがった。
千葉県野田市で無農薬のさつまいも栽培を行っている同社は、2021年に入社された中野あずささんが中心となって農業事業への新規参入を果たした。中野さんはもともと都内で会社員として勤務し、1日14~15時間働く多忙な毎日を送られていた。ある時、今ある職業の6割がAIや機械化によってなくなるという説があることを知り、自分の働き方に疑問を感じられた中野さん。この先も残る仕事は何かと考えた時、「食べ物をつくる仕事だけはなくならない」と就農を決意された。
中野さんから進路について相談を受けた弟の雄大さんも、以前から日本は食糧自給率が低いにも関わらず、日々大量の食品ロスが発生している矛盾した状況に危機感を抱いており、「どうにかしたい」という想いから農業事業への参入を模索。雄大さんが立ち上げた同社の取締役に中野さんを迎える形で、農業事業をスタートされた。
とはいえ、東京出身の中野さんは土に触れた経験がほとんどなく、まずは同社の拠点がある野田市役所のアドバイスに従って日本農業実践学園の3か月コースに入学。修了後は農地を確保し、学園で学んださつまいも栽培を始められた。「さつまいもは手間があまりかからないので初心者にも取り組みやすく、焼き芋やスイーツなど加工もしやすいので、食品ロスの軽減にもつながると考えました」。
農業事業の発足当時について「トラクターで畑までたどり着けない、ひとりで軽トラに管理機を載せられないレベルからのスタート」と振り返る中野さん。近隣の生産者から運転方法や畑までの安全な道などを教わりながら、徐々に農業機械に慣れていかれた。「私が女性ということもあってか、トラクターを運転しているだけで褒められることもありました。でも現在メインで使用しているYT221はオートマ感覚なので初心者でも運転が簡単。作業機の付け替えも、クイックヒッチがあるので私ひとりでも楽々です」とトラクターの操作にも自信がうかがえる。特にクイックヒッチは「女性にとってなくてはならないぐらい大切な機能です」と高く評価していただいた。「重たいものを持つこともたまにはありますが、思いのほか機械がやってくれることが多いので、昔に比べれば女性でも農業がしやすい環境が整っているのでは」と語ってくれた。
営農開始直後にYT221を導入された中野さん。ヤンマーについて、当初はエンジンや機械系に強いメーカーというぐらいの認識だったが、野田市の特販店株式会社竹塚機械店とのご縁から、これまで5台のヤンマー農業機械を導入されている。「竹塚機械店さんはご近所なので万が一の場合にも安心ですし、『次はここを機械化したい』『こんな道具があれば』といったこちらの漠然とした要望に、その都度的確な機械をご提案いただきました」と、厚い信頼を寄せられている。
1年目にYT221+マルチャー、かんしょ移植機PH10A、かんしょつる切機TC110K、ポテカルゴGRA650などを導入。うね立てからマルチ作業、植付け、茎葉処理、収穫と一連の作業の機械化を進めてこられた。「最も重宝したのはポテカルゴGRA650です。掘り上げからコンテナ詰めまで一気にできるので、これがなければ1年目は乗りきれなかったかもしれません」。
無農薬栽培を始めた2年目からは、緑肥として栽培したソルゴーをフレールモアFNC1602で細断し、EG65を使ってすき込んでいる。「フレールモアは根元を刈った後、細断もしてくれるので、緑肥として分解されるまでの時間が短縮されます。EG65は当社の営農規模では設備過剰にあたるかなと考えましたが、導入してみると馬力が強い分深掘りでき、作業時のストレスがぐっと軽減されました」と、満足しておられる。
「2年目にしてここまでの設備は早計かもしれないと考えたこともある」という中野さんだが、積極的な設備投資は同社代表の雄大さんの方針でもある。同社は農業を建設に次ぐ事業の柱として捉えており、そのためには機械化によって人件費を削減し、作業効率を高めて一日も早く収益を出さなければならない。
また、事業を成長させる上で不可欠な「若い人材の確保」という点でも、人力の作業を減らす機械化には大きな意義があると考えている。雄大さんは「建設事業でも機械を多数導入していますが、新規に取り組む農業では機械を使ってどの程度効率化できるのか、また機械化すべき点とそうではない点がどこなのかは、実際に機械を使ってみないとわからないと考えました。であればなるべく早いタイミングで先行投資する方が良い。それに投資をしたからには何が何でも回収するという覚悟も生まれます」と、機械化への想いを語られた。
「まだ2期目に入ったばかりですが、東京出身の自分にとって農業の世界は毎日が楽しく新鮮です。畑にいると誰かが話しかけてくれたり、差し入れをいただいたり、今では『トラクターに乗っている人同士はみんなお友達』という感覚です」と充実した表情を見せられる中野さん。今後はさつまいもの作付面積をどんどん拡大しながら、農業ビジネスを採算ラインに乗せることが最優先の課題だ。
また機械への投資だけでなく干し芋加工場の建設にも着手しており、2023年中の稼働を目指しておられる。「青果として出荷できるさつまいもはA品のみなので、1年目はB・C品を自分たちで消費し、余った分は廃棄するしかありませんでした。自社で干し芋を製造できる体制ができれば、B・C品を加工に回せるためより多くの収益が見込めますし、うまくブランディングすれば付加価値も高められます。何より農業事業の目的のひとつである『食品ロスの削減』にも貢献できると考えています」と6次産業化に向けての意気込みを聞かせてくださった。
「この2年間は試行錯誤しながら機械化や農地の確保、6次化などに取り組んできました。新規就農ならではの苦労も味わってきたつもりなので、農機のシェアや新規就農者のネットワークづくりなど、若い人たちが就農しやすい環境づくりにも貢献できれば」と中野さん。自身の人生を大きく変えた農業への想いが、今後どのように結実するのか。物語の続きが楽しみでならない。
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