代表取締役社長
谷口 浩一様
- 地域 : 広島県庄原市
- 掲載年 : 2022年
- 作物・作業 : キャベツ(100ha)/大根(20ha)/麦類(もち麦、小麦)(30ha)/トマト(4ha)
お好み焼きの本場、広島でキャベツを中心に野菜を栽培する株式会社vegeta(以下、同社)。1994年に創業して以来規模拡大を続け、
現在は北部の庄原市、三次市、安芸高田市、南部の福山市、尾道市などに約120haのほ場を所有されている。代表取締役社長の
谷口さんは、変化をおそれることなく、スマート農業にも果敢に挑戦。歩みを止めない谷口さんの農業経営についてうかがった。
同社は、広島県の中山間地域の庄原市に本社を置く、広島県随一を誇る農業法人だ。代表の谷口さんは、20歳の若さで就農され、ほうれんそうの雨よけ栽培と原木しいたけの栽培から営農を始められた。その後27歳のときに農水省の補助事業を活用して葉物野菜の水耕栽培へシフトし、有限会社を設立。さらに十数年後、広島の中山間地域で過疎化による担い手不足が進み、耕作放棄地が目立ち始めると、「農地を活かして雇用を創出し、地域を守りたい」との想いで露地栽培に参入された。
この頃から、「生産物の価格を自分たちで決定し、一定の収入を得られる産業として農業を確立させたい」という想いを強められたそうだ。自然相手の不安定な農業で一定の収益を確保するには、スケールメリットを出すことが第一と考え、2015年に株式会社vegetaの代表として新しいスタートをきられた。そして2016年、広島県が大規模な農業団地を整備して貸し出す事業をスタートさせると、この事業の補助金を利用して農機を新たに買い揃え、一気に規模を拡大された。
現在、ほ場は各地に点在しており、標高差は、0〜900mと大きい。それらのほ場で効率的に野菜を栽培するために谷口さんがこだわるのは、適期適作である。「夏は涼しいところへ、冬は暖かいところへ。環境の特性を活かすことで、農薬や肥料の使用量が抑えられて自然への負荷が軽減できるし、山間地域の担い手創出にも貢献できます。地域の資源を活かし、地域の人と一緒に農業をさせてもらっています」。農業をこよなく愛する谷口さんは、人と地域と野菜を尊重し、持続可能な農業を実践されている。
ただ、もともと水田だったほ場は、畑地として活用するには水はけが良くない。加えて、山間部では黒土、中間部では粘土質の赤土、南部では真砂土と、地域によって土質が異なるため、1年目のキャベツ栽培は試行錯誤の連続だったという。「最初の頃はなかなかうまくいきませんでしたが、3年もすれば土性がわかってきて、長雨が降っても心配ないくらいのほ場になりました」。大変な苦労もされたのであろうが、それをこともなげに話される。現在も油圧ショベルで額縁明きょを施して水はけを改善したり、連作障害を防ぐために裏作でもち麦を栽培するなどの施策を講じ、土づくりにこだわって質の高いキャベツの生産を可能にされている。
最近ではキャベツだけでなく、大根やトウモロコシなど栽培品目を積極的に増やし、経営の安定と連作障害の対策を図っておられる。今年の7月にはカゴメ株式会社と西日本初の栽培契約を結び、トマトジュースの原材料となるトマトの栽培に乗り出した。こうした多品目栽培を大きく後押ししたのが、スマート農業の実践である。
2019年からの2年間、農水省の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」の一環でヤンマーの自動操舵システム付きトラクターや情報支援機能付コンバイン、キャベツ収穫機HC1400などを導入し、機械化一貫体系へ移行すべく、様々な実証試験を行われた。
キャベツ収穫機については、「芯がしっかりしている秋〜冬の収穫に良いですね。オペレータ1名とコンテナへの搬入者2名で作業ができるので、作業時間が48%削減できました。機械収穫と手収穫を合わせて行うとより効率的で、時間当たりの収穫面積が増えました」と機械導入の効果を実感いただいた。
こうしたスマート農業を足掛かりに、人材育成や組織づくりにも注力されている。たとえば、農作業をマニュアル化し、新入社員が着実に成長できる教育システムを構築された。谷口さんは、「新人にはレベルに応じた目標を設定して、マニュアルに沿って段階的に研修を行っています。今いる社員も、マニュアルをつくるためにみんなで熱心に勉強してくれていますよ」と誇らしげだ。
テレワーク勤務の社員も採用された。農業でテレワークとは驚くが、現場で入力されたデータを整理したり、次の作物の資料をつくったりと、多方面で会社のサポート役を担うスーパー社員だ。おかげで現場の社員は現場の仕事に集中できるようになったそうだ。さらにここ2年では、課長が社員と面談して評価を行い階級や昇給を判断する仕組みや、年に2回の社長面談の制度も整えたという。
「単なる機械化・効率化だけがスマート農業ではありません。分業化も含め、ものの見方を整理して、スマートな考え方へ転換していくことがスマート農業だと思うのです」。機械による数字の成果だけではなく、取り組みによって社員の意識が変化していくことに意義があるという。社員の方々がほ場ではつらつとした笑顔を見せておられたのも、農業を前向きにとらえ、新たな挑戦を続ける会社だからこそだろう。
効率的な大規模営農が可能になった今でも、谷口さんが一日中社長室に座っている日はない。「僕は農業が好きで農業をしています。だから社長になっても現場に出て畑仕事をする。社員も、ずっと現場で作業をしたい人もいれば企画運営をしたい人もいるので、それぞれの特性を活かして活躍してほしいと思っています」。谷口さんの言葉の一つひとつには、社員と農業への愛情があふれている。
「当社だけが拡大すればいいわけではなく、みんなが豊かにならなければ。そのために、みんなが『こうなりたい』と目標にできる形に会社をつくり上げていきたいのです」。今年度は、庄原実業高校の特別授業に講師として参画し、年間120時間の講義でスマート農業を中心とした農業の考え方を伝えるという谷口さん。「私の次の役目は、農業を、誇りを持てる仕事にすること。若い世代に農業への考え方を発信し、次世代の農家を育てたい」。新たな農業経営の形を、自らの姿で示そうとされている。
収穫しながら選別・調製ができるため、効率良く作業ができます。