YANMAR GREEN CHALLENGE2050
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国内初の舶用水素燃料電池システムで
ゼロエミッションをリードする。
2024年4月1日

ヤンマーグループでは脱炭素社会への移行に向けて、船舶に用いる水素燃料電池システムの開発に国内で初めて成功しました。その仕組みや開発過程での課題、そして、今後の展望について、ヤンマーパワーテクノロジー株式会社特機事業部システムエンジニアリング部のステムエンジニアリング部に所属する平岩さんにお話を伺いました。

取材者プロフィール

平岩 琢也
ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
特機事業部 システムエンジニアリング部

次世代エネルギーの水素で、
船舶を環境にも、人にもやさしく。

世界的に脱炭素に向けた取り組みが行われる中で、海事分野においても2018年に国際海事機関(IMO)がGHG 削減戦略を採択し、総排出量削減が掲げられました。そうした中で世界から注目されているのが船舶用の水素燃料電池システムです。水素燃料電池システムの発電時にで排出されるのは水と熱だけであり、二酸化炭素などのGHGや窒素酸化物などの大気汚染物質を排出しません。しかし、国内における船舶への実用化の前例はなく、ヤンマーでは国土交通省からの受託研究や、環境省の補助事業への参画等を通じて実証試験を実施してきました。その結果、2023年に国内初として旅客船向けに水素燃料電池システムを出荷。日本の船舶の歴史に、新たな1ページを刻むことに成功しました。
舶用水素燃料電池システムのメリットは、環境面だけではありません。「燃料油ガソリンを使用しないので、無臭であることも実は船舶においては大きな利点です」と平岩さんは言います。旅客船において、船酔いの原因として挙げられるのが燃料ガソリン油の匂いです。水素燃料電池システムを動力燃料とすることで匂いの問題も解消。さらに、エンジンが不要となるため振動や騒音を大幅に軽減し、快適性の向上にもつながります。

実用化を難航させた、
コストとルールの2つの壁。

このプロジェクトは、一筋縄ではいかなかったと話す平岩さん。まず壁となったのが、コスト面です。コストを抑えるために、すでに実用化されている自動車用の水素燃料電池システムを船舶用に改良することに。しかし、自動車とは異なり、爆発を防ぐ“防爆対応”の基準をクリアする、という点が船舶用では非常に重要になります。当然、防爆対応をすることでコストは増大。その課題を解決したのは、ヤンマーがこれまで培ってきた知見でした。長年、ガスエンジンの開発を手掛けてきたヤンマー。そのノウハウを駆使することでコスト削減、そしてコンパクト化を実現し、船舶用として水素燃料電池システムを完成させることができたのです。
また、技術面以外に、日本にはまだ船舶用の水素燃料電池システムに関するガイドラインルールが存在していないということも、大きな壁となりました。そのため、平岩さんは国土交通省や日本海事協会と共に、ルール法規制作りから始める必要がありました。「ルールがあればそれに合わせて作ればよいのですが、日本においてはゼロからの取り組みとなるため常に手探りでした」と、平岩さんは“日本初”である難しさを振り返ります。

実証実験の様子

海外展開を加速させ、
ヤンマーを次のステージへ。

ヤンマーの船舶用の水素燃料電池システムに対して積極的に関心を示したのは、国内のみならずノルウェーやオランダ、イギリスといった海外諸国でした。欧州や米国では、窒素酸化物やGHGの排出削減に向けた規制などが、日本に比べて先進的に取り組まれているからです。エンジンメーカーとして燃料電池システムを提供しているケースは世界的にもそれほど多くなく、その取り組みに国外からも大きな期待が寄せられています。
これまでエンジンという動力源を提供してきたヤンマー。しかし、水素燃料電池システムを開発したことで、動力源の電動化を実現、さらに動力源だけでなく動力ユニット全体を提供することもできます。「モノを売るだけでなく、お客様のご要望に合わせてシステムを開発・マネジメントする舶用のシステムインテグレーターに近づけたと思います」と、ヤンマーにとっても、このプロジェクトが大きな一歩となったと平岩さんは語ってくれました。

完成した舶用水素燃料電池システム(240kW機)
2023年8月に商品化した舶用水素燃料電池システム搭載した旅客船HANARIA(ハナリア)
進水式の様子(2023 年9月13日、提供:MOTENA-Sea)