スペシャル対談企画第6弾 毎熊 晟矢 小山 史乃観 桜の武器。サイドバック論

CHAPTER #3 スペシャル対談 06

新進気鋭のサイドバック。
日本代表に定着していくために

現代サッカーにおいて、すっかり定着した“偽サイドバック”という言葉。大外レーンを主戦場とする従来の上下動だけではなく、ボールを保持した際に、ボランチに近い内側レーンに位置を取り、ビルドアップの循環を助けるポジショニングを指す。ジョゼップ・グアルディオラ監督がバイエルン・ミュンヘンを指揮した時代に導入、話題となったが、Jリーグでも2018年、横浜F・マリノスを率いたアンジェ・ポステコグルー監督が持ち込み定着。いまではJリーグにもこの概念は浸透している。今回の対談に登場する毎熊晟矢と小山史乃観は、この“偽サイドバック”のプレースタイルを自分のモノにしている。前者は、プロ入り後、FWからSBにコンバートされ、後者もSBから一度はトップ下など攻撃的MFでプレーし、再びSBに戻り、現在の立ち位置を築いている点も興味深い。互いにそれぞれの言葉に深く聞き入るなど、真摯な人柄も共通。随所で共感する場面もあり、両者の考えは近いことが伝わってきた。(取材日:2023年11月8日)

お二人は初対面ですか?

毎熊・小山:はい。

毎熊:若いですよね?

小山:はい(笑)。

小山選手がセレッソに入った中1の時、毎熊選手は大学2年という年齢差です。

毎熊:だいぶ離れていますね(笑)。

小山:そうですね(笑)。

互いの試合やプレーは見ますか?

毎熊:ハイライトでは見ています。その中で、小山選手はゴール前まで入ったり、シュートも打つ姿もあったので、自分とも似たサイドバックなのかなと思いました。

小山:毎熊選手のことは、セレッソもそうですし、日本代表でもプレーを見ています。内に入るプレーは参考にさせていただいています。

毎熊:ありがとうございます(笑)。

最初のテーマは「SAMURAI BLUE」と「なでしこジャパン」。対談が行われた11月8日は北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選を戦う日本代表メンバー発表の日で、毎熊も3度目の選出を果たした。一方の小山も昨年9月、なでしこジャパンに初選出され、10月9日に行われたMS&ADカップ2022ニュージーランド戦でA代表デビューを飾っている。両者とも、立ち位置としては“ここから”であり、目の前にはライバルも多いが、五輪やW杯など大舞台でピッチに立つことを目指し、今後も研鑽を重ねていく。

ここから代表に定着し、次のW杯を目指すお二人なので、まずは代表をテーマに話を進めていきたいと思います。小山選手は昨年9月になでしこジャパンデビュー、毎熊選手も今年9月に日本代表デビューを果たしました。それぞれ初代表時の思いを振り返ると?

毎熊:人見知りという性格もあり、合流時は緊張しました。話しかけることも大変でしたね(苦笑)。

小山:年齢が近い選手も何人か一緒に選ばれたので、話すことはできたのですが、当時は、普段、戦っているリーグが違ったので、「うわぁ(見たことがある選手がいる)」ってなりました(笑)。

毎熊:代表に入る選手はみんなエリートで、世代別代表にも選ばれていた選手が多い。僕のように、知り合いがいなくてパッと入る選手は少ないので、そこは難しさを感じました。

その意味では、小山選手はエリートですよね。

小山:いえ(笑)。

世代別代表での経験も豊富ですし、A代表にも臆することなく入っていけましたか?

小山:でもやっぱり、なでしこジャパンはアンダー世代とはだいぶ違う雰囲気はありました。

昨年9月のニュージーランド戦で、途中出場で初キャップを刻みました。この瞬間の思いは?

小山:ピッチに入ったら、代表だから、という緊張はなく、自分のプレーを出そうという思いだけでした。自分が入った時は攻めている時間帯だったので、点を取ってやろうという気持ちで入ったのですが、もう少し良さを出せれば良かったなと思います。

毎熊選手は、初キャップとなったトルコ戦を振り返ると?

毎熊:練習で紅白戦とかもなく、ぶっつけ本番に近かったですが、アピールする機会はここしかない、と思って試合に臨みました。ここでアピールできなければ、今後、呼ばれることはないだろうなという覚悟を持って試合に入りました。

代表活動を通して影響を受けた選手はいましたか?

毎熊:僕の場合は、チームでもキヨくん(清武弘嗣)や(香川)真司さんという、ずっと代表でプレーされてきた選手たちを普段から見ているので、代表に行って特別この選手に影響を受けた、という感じではなかったです。

小山:熊谷(紗希)さんとかベテランの選手たちはオンとオフがハッキリしていて、やる時の厳しさはすごく感じました。紅白戦でも、かなり頭を使ってプレーすることを求められました。

毎熊:男子もピッチに入ったらみんな真剣ですが、ホテルに戻ったらリラックスしていて、オンとオフがしっかりしている印象です。なでしこジャパンは、どんな雰囲気でしたか?

小山:なでしこジャパンも、オフの時間は結構わちゃわちゃしていますよ(笑)。

毎熊:男子はスタッフの人が話しかけてくれることも多く、「こういうところがいい部分。ここはもっと伸ばしていこう」と言ってもらえます。それが自分でも思っていることと重なる部分が多くて、明確で分かりやすい。なでしこジャパンは、スタッフとの会話はありますか?

小山:アジア大会では、個別でフィードバックされました。監督からも、やってほしいプレーを提示されました。

男子も森保(一)監督から直接アドバイスされることもありますか?

毎熊:練習の時は、攻撃は名波(浩)さん、守備は斉藤(俊秀)コーチがアドバイスしてくれます。試合後は、監督が話しに来てくれました。

ポジションを争う選手との関係性は?

毎熊:菅原(由勢)選手は明るくてムードメーカー。自分も彼と喋りますし、気まずい関係ではないですね(笑)。橋岡(大樹)選手もそっちのタイプです。前回の代表でも二人で大浴場に行って話したりもしたので、ギスギスした感じはないです(笑)。

小山:自分も“ライバル”という感じより、互いに高め合っていく意識です。自分が年下になることも多いので、上の選手に聞きながら、教えてもらっている感じです。

代表に対する思いは?

小山:パリオリンピックへ向けて、セレッソで頑張らないといけないと思っています。

毎熊:行けば行くほど、また戻りたい気持ちが強くなる場所です。まだ毎回、発表があるときは「どうなんだろう?」というドキドキも抱えているので、本当の意味で定着できるように、毎回アピールしないといけないと思っています。

これから常に選ばれるために意識したいことは?

毎熊:自分は攻撃が特長なので、中に入るプレーと外で作るプレーを使い分けて、より高い位置に進入していく部分は出していきたいです。攻撃の色をしっかり発揮しながら、守備でもしっかりやれる、というところも示していきたいです。

小山選手は、9月に行われたアジア競技大会では、見事優勝を達成しました。ここからなでしこジャパンに入って定着していくために、どういったことを心掛けていますか?

小山:いま、なでしこジャパンに選ばれている選手はストロングがハッキリしています。特に縦に仕掛ける選手が多い。自分はそういうタイプではなく、中で作ったり、ビルドアップに関わりながらゴール前に進入していく特長があるので、そこを出しつつ、いまの選手たちとの違いを作っていきたいと思っています。

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求められることが多いポジション。
サイドバックを極めたい

続いてのテーマは、今回の対談のメインでもある“サイドバック論”と“コンバート論”。現代サッカーにおいて、多岐に渡る役割が求められるサイドバック。両者とも、そうした潮流に沿うように、ゲームも作れるSBとして存在感を発揮している。現在、どのような思考でプレーしているのか。また、FWやトップ下など攻撃的なポジションでプレーしていたからこそいまに生きていることは何か。それぞれの実体験をもとに、語り合った。

お互い、かつては攻撃的なポジションでプレーしていた中で、現在はサイドバックでプレーされています。まずサッカーを始めたころのポジションは?

小山:ずっとサイドバックをやっていて、高校生になって前をやって、今またサイドバックに戻ってきたという感じです。

毎熊:僕はずっとFWで、サイドバックはプロになってからです。

現在、サイドバックとして意識しているプレーは?

毎熊:昨年、サイドハーフを経験したことで、サイドバックに戻ってからも、より中に入るプレーは多くなりました。中に入る時と外に出る時のタイミングは意識していますし、周りの選手のポジショニングをよく見ることも意識しています。

小山:攻撃でアタッキングサードに入った時の質は(鳥居塚伸人)監督からも求められているので、そこで違いを出して、ゴールを決めることを意識しています。「結果を出すことがなでしこジャパンにもつながる」と言われているので、いまはアタッキングサードでの質を意識して練習しています。

今回の対談は“コンバート”というテーマもあるのですが、前のポジションをやっていたからこそ、現在サイドバックでプレーする上で強みになっている部分はありますか?

毎熊:サイドバックをやり始めて今年で4年目ですが、2022年はほぼやっていないので、実質3年目みたいな感じです。小さいころからサイドバックをやっている選手に比べると、守備で見劣りする部分もあると思いますが、逆に小さいころから前のポジションをやっていた分、攻撃では、ずっとサイドバックをしてきた選手にはない発想もある。そこは、前をやっていたからこその強みだと思います。

小山:攻撃のポジションをやる前は、組み立てが楽しくて、サイドバックをやっていました。点を取るのはほかの選手に任せて、後ろで回して、点を取るまでの過程で相手を揺さぶることが楽しかったのですが、攻撃のポジションをやって、得点を取る楽しさを知ってからは、サイドバックに戻っても結果にこだわる意識は強くなりました。サイドバックでも点を取る選手が上のレベルに行けると思います。

毎熊:サイドバックでも得点を狙うことは、僕も意識しています。最初、サイドバックを始めた時に感じたことは、「ゴールが遠いな」ということ。それまではFWで、ゴールを取るのが好きでプレーしていましたし、練習が終わった後もシュート練習は毎日やっていました。サイドバックになってからは、「シュート練習する意味はあるのかな?」と思っていたのですが、コーチの人に、「シュート練習やれよ」「点の取れるサイドバックになればいい」と言われて、確かにサイドバックでも点を取っていいんだなと、そこでハッと気付きました。なので、自分もサイドバックで出ても、ゴールやアシストにはこだわっていきたい思いは強いです。

意識の変化以外に、実際のプレーで生かされていることはありますか?

小山:中に入るポジショニングは、「ここに立っていたら相手が嫌だろうな」ということは以前より分かるようになりました。ずっとサイドバックをやっていたら分からなかった感覚かも知れません。

毎熊:そこも同じ思いですね。先ほども言いましたが、自分も昨年サイドハーフを経験したことで、サイドバックに戻ってから、より中に入る感覚は強くなりました。もう一つ、前をやったからこそ、いまのサイドバックで生かされていることは、ボールを持った時に少し余裕を持てることです。前のポジションはいろいろな方向から相手がボールを奪いに来ますが、サイドバックは比較的プレッシャーが弱い。なので、小山選手もトップ下を何年かやってサイドバックに戻ったということなので、いまは少し余裕があるんじゃないですか?

小山:そうですね。プレッシャーの感じ方は全然違いますね。前(のポジション)に比べると、余裕を持って見ることはできます。トップ下はゴールに直結するプレーを求められますが、サイドバックは作る過程から始まって前に出て行けるので、出て行きやすさはあります。

周りと絡むこともうまいお二人ですが、ボールの受け方や絡み方は、ある程度、相手も分析して試合前に決めるのか、状況を見て判断するのか。

毎熊:(縦関係を)組む味方選手によっても変わります。いまはジョルディ(・クルークス)と組むことが多いですが、彼とは、決め過ぎないほうがいい。事前に決めていたとしても、最初の数分を見て、ポジショニングを変えることも多いです。

小山:私も試合の中で感じて、周りの選手と関わることが多いです。この前のアジア大会も、試合の中で臨機応援にポジションを取っていました。

ポジションを取る感覚は、お互い気になりますか?

小山:アジア大会のミーティングでは、毎熊選手の映像が出てきました(笑)。

毎熊:ホントですか!?

小山:内に入って受けるプレーだったのですが、「こういうプレーをしてほしい」という話をスタッフからされました。

毎熊:嬉しいですね(笑)。

サイドバックは、かつては上下動がメインでしたが、現代サッカーではゲームを作るセンスも求められる時代ですからね。

毎熊:組み立てをしてゲームも作りながら、自分でも点を取りに行く。どっちの楽しさも味わえているので、そこは(小山と)似ているのかなと思います。

小山:そうですね。私もいまはサイドバックのほうが楽しいと思ってプレーしています。いまのサッカーでは、求められることが多いポジションですが、ただこなすだけではダメ。そこからもう一つ、求められていること以上のことを出していかないといけないと思っています。

守備について、現在、意識していることはありますか?

小山:自分は小さいころから長くサイドバックをやっていたので、守備の面でそんなに言われることはないのですが、サイドバックは運動量が求められる。上がった後に、下がって守備をすることはキツイ(苦笑)。そういう時は相手にバックパスをさせるように、自分のところでやられないようにうまく守ることは心掛けています。ただ、海外のサッカーを見ていると、サイドバックでも奪い切る守備ができる選手は多いので、そこは課題です。

毎熊:めっちゃ分かります(笑)。上がった後に守るのはキツい。「いま、仕掛けられたら厳しいな」と思う時は、自分もサイドを変えさせるように意識しています。奪い切る守備については、Jリーグはゾーンで守ることが多いですが、代表では海外でプレーしている選手も多いので、マンツーマンで守る。「カバーではなく、人でいいよ」と言われます。その違いの難しさは感じています。人に行く感覚もつかめるようにしていきたいと思っています。

これからもサイドバックを突き詰めていきたいですか?

毎熊:僕はもう、ほかのポジションをやりたいとは思わないですね。

小山:私もサイドバックで世界やなでしこジャパンを目指したいと思っています。

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セレッソがなかったら
いまの自分もいない

対談の締めは、“自身にとってのセレッソ大阪と未来”。昨年、J2からJ1にステップアップ、今年は日本代表まで上り詰めた毎熊は、セレッソへの移籍を「成功でした」と語り、小山も「セレッソがなかったら、いまの自分もいない」と話す。それぞれがクラブへの恩も感じつつ、今後の目標については、小山が「世界で活躍できる選手」とキッパリ。毎熊も代表選出を機に「海外でのプレー願望は強くなっている」と明かす。近い将来、海を渡る可能性も高い両者だが、今後も男女の垣根を超えて切磋琢磨し、それぞれが高みを目指していく。

今年12月に創設30周年を迎えたセレッソ大阪ですが、お二人にとってのセレッソとは?

毎熊:移籍してきて感じたことは、みんな仲がいい、ということ。楽しむ雰囲気を忘れない中でも、真剣にやることがセレッソの魅力の一つだと思います。そこが楽しくて、練習でも練習が終わっても楽しいです。そういう雰囲気がセレッソの好きなところですね。

入って早々に馴染めましたか?

毎熊:そうですね。人見知りなので、いつもは慣れるまで時間がかかるのですが、ここはすぐに馴染めました(笑)。

小山:セレッソは、自分を成長させてくれたクラブです。中学から入って、いろいろ教えてもらいました。セレッソがなかったら、いまの自分もいないと思えるくらい、大好きなクラブです。ほかのチームと比べても、昔からずっと一緒にやっている分、仲はいいと思います。

今後のキャリアについても伺います。今後、成し遂げたい目標や、どういう選手になりたいですか?

毎熊:今年のルヴァンカップ決勝をテレビで見たんですけど、昨年の決勝を思い返して悔しくなりました。タイトルを獲りたい思いがより強くなりました。タイトルを獲るためには、タイトルを獲らせる選手が何人かいないと難しい。それがどんな選手なのか、いまはまだ分からないですが、技術だけではないと思います。自分が今後、いろいろな選手から学びながら、タイトルをもたらすことができる選手になりたいです。

小山:自分はずっと世界を目指してやっているので、世界や欧州で活躍できる選手になりたいです。

毎熊選手は、海外でのプレー願望については?

毎熊:そんなに強くはなかったのですが、代表に行くと海外でプレーしている選手が多いですし、その気持ちは強くなります。海外の国と対戦して、フィジカルやスピードがある選手と対峙すると楽しいので、海外でプレーしたい気持ちは強くなりました。

小山選手は、今季から参入しているWEリーグへの思いはいかがですか?

小山:たくさんの人が動いてくれて、WEリーグに参入できたことを感じています。選手は結果で、そういった周りの人たちを笑顔にできるようにしたいですし、今後、タイトルを目指せるチームになっていきたいです。

最後に、サッカーを続ける上での原動力について、聞かせて下さい。

毎熊:自分はサッカーが好きだから、ですね。悔しいことがあっても、すぐサッカーがしたくなります。そこに尽きるかなと思います。

小山:自分もサッカーが好きな思いが原動力です。あとは、家族や応援してくれる人たちのために、という思いも強いです。

PROFILE
毎熊 晟矢
1997年10月16日生まれ、26歳。長崎県出身。黒髪フットボールクラブジュニア→JFCレインボー長崎→FOOTBALL CLUB BRISTOL U15→東福岡高校→桃山学院大学→V・ファーレン長崎→セレッソ大阪
小山 史乃観
2005年1月31日生まれ、18歳。大阪府出身。塚原サンクラブ→セレッソ大阪堺ガールズ→セレッソ大阪堺レディース→INAC神戸レオネッサ※期限付き移籍→セレッソ大阪ヤンマーレディース。