スペシャル対談企画第3弾 福永絵梨香 キム ジンヒョン 西中麻穂 山下莉奈 桜の最後の砦。GK論

CHAPTER #3 スペシャル対談 03

桜の最後の砦。GK論

セレッソ大阪のGKキム・ジンヒョン。09年に加入後、ここまでどんな時でも桜のゴールを守り続けてきた絶対的守護神だ。シュートストップよし、クロス対応よし、フィードよしと、さまざまな面でハイレベルな背番号21は、セレッソ大阪ヤンマーレディースの3選手にとって憧れの存在でもある。リラックスした雰囲気でスタートした座談会は、レディース3選手が率直な質問を投げかける形でスタート。その後、GKを始めたきっかけや魅力に話題が移る中で、チームに一つしかないポジションの難しさなど、キム・ジンヒョンの本音もチラリ。意外な一面を見ることもできた。理想のGKを目指して日々練習を重ねる4選手の熱い思いを聞いてほしい。(取材日:2023年10月12日)

ジンヒョン選手とレディースの3選手は初対面ですか?

ジンヒョン:初対面ではないですが、しっかり話すのは初めてです。

福永・西中・山下:よろしくお願いします!

ジンヒョン選手がセレッソに加入したのが09年です。

ジンヒョン:生まれていたよね?

福永・西中・山下:はい(笑)。

ジンヒョン:良かった(笑)。

09年は福永選手が小6、西中選手が小5、山下選手が小3です。そのくらい年齢が離れているのですが、3選手から見たジンヒョン選手は?

山下:ずっとセレッソで試合に出続けていることがすご過ぎて、セレッソにものすごく貢献されている選手だなと思います。

西中:違う国で、始めは言葉も通じない中で日本語を勉強されて、正GKの座を獲得して、ずっとJリーグで出続けているのは本当にすごいなと思います。見ていて、技術の高さが印象的で、ビルドアップのパス一つにしても、味方が受けやすいパスを出す。「そんなところを見ていたんや」というところに付けるパスも多い。憧れであり、尊敬しているGKです。

福永:初めてプレーを見たのが、私が高校1年生の時です。ボールパーソンをレディースでやらせてもらった時に一番近くで見させてもらって、カッコ良くて、ゴールを守っている姿が頼もしくて、そこからずっと憧れの選手です。(西中)麻穂も言ったように、ゴールを守るだけではなく、ビルドアップで「そこまで見えているんだ」「そこを通すんや」というパスを出せるのがすごいなと。GKはすぐ後ろにゴールがあるのでプレッシャーも大きいのですが、ミスを恐れずチャレンジするところもすごいなと尊敬しています。

3選手の言葉を聞いて、いかがですか?

ジンヒョン:褒められるのは慣れていないです(苦笑)。帰ってもいいですか(笑)。でも、同じGKからそう思ってもらえることはうれしいですね。もっと頑張らないといけないと思います。

普段からの練習の取り組みなども含め、ジンヒョン選手に聞いてみたいことはありますか?

山下:試合で「今日ヤバい、調子悪い」と思った時は、どう戻すのですか?

ジンヒョン:そうならないようにしっかり準備することが大切です。しっかり準備しておけば大丈夫。それでも調子が悪いなと思ったら、自分の顔を叩きます。「起きろよ」って(笑)。グローブをハメているから、そこまで痛くない(笑)。

山下:そうなんですね! 私も自分にカツを入れます(笑)。

ジンヒョン:女性なので、顔はやめて下さいね(笑)。あと、ミスはあるモノなので、気にせずやることも大事です。

山下ありがとうございます。

福永:試合に入る前は、何を考えて入りますか?

ジンヒョン:まずは、いいウォーミングアップをすることしか考えていません。そうすれば、そのまま試合に入れる。ウォーミングアップから集中力を高めて試合に入ることしか考えていないです。

まず目の前のことをしっかりやって、そのまま試合に入ると。

ジンヒョン:そうですね。ウォーミングアップのキャッチ一つひとつ、セーブ一つひとつ、集中力を高めてプレーすれば、試合に向けて体も温まっている状態になるので。

福永:ありがとうございます。

西中:コーチングで意識していることは何ですか?

ジンヒョン:練習でも試合でも、GKは雰囲気を作ることが大事。チーム全体の雰囲気を作るためには、まず大きな声は必要です。守備では、ペナルティーエリアに入ってきた相手に対して、自分が止めやすいところに相手を行かせる。ペナルティーエリア内に入らせないようにすることも仕事ですが、入ってきたら、自分が止めやすいように声でDFを動かすことが大事です。攻撃では、そこまで自分から意見を出すことはありません。チームとして決められている立ち位置もあるので、僕が要求し過ぎると周りも混乱する。コミュニケーションは取りますが、攻撃面でのコーチングはほとんどしないですね。

西中:ありがとうございます。

こちらからも一つ質問なのですが、ゴール前での切り返しは怖くないですか?

ジンヒョン:正直、ゴール前での切り返しは要らないです(笑)。

福永・西中・山下:ハハハ(笑)。

ジンヒョン:一歩、間違えたら失点なので、ノブさん(武田亘弘GKコーチ)も、「切り返しは要らない」と言っているのですが、瞬間的に出てしまう時がある(笑)。でも、ゴール前ではやらないように、なるべく中央は外してサイドでやります。見ているほうもドキドキすると思いますが、やっているほうはもっとドキドキするので、できれば切り返しをしないで済むように判断を速めたいです。

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サッカーで最も特別なポジション。
GKの魅力と矜持

外国籍選手としてのJ1最多出場記録を更新し続ける偉大な選手へと成長したキム・ジンヒョンだが、「ただ背が高いから」という理由でGKを始めたという。レディース3選手がGKを始めた理由にも興味津々で、レディースの3選手が自らの意思でGKを始めたことを聞くと、羨ましがる様子も見られた。いまでも「楽しいことより苦しいことのほうが多い」(キム・ジンヒョン)と語るGKというポジション。その魅力や、最後の砦として大切にしていることなど、各々の矜持が伝わるトークが繰り広げられた。

そもそもGKを始めたきっかけは?

ジンヒョン:女性でGKを始めたきっかけは、気になりますね。僕は、ただ背が高いから、という理由でコーチにやらされて始めました(笑)

福永・西中・山下:フフフ(笑)

ジンヒョン:GKは小5から始めたのですが、高校生の途中までは嫌だったんですよ(苦笑)。倒れたくないし、地面に体をつけるのも嫌。誰も教えてくれなかったので、倒れ方も分からなかったですし。ただ「身長が大きいからやれ」とコーチに言われて。両親とも大きかったので、コーチにも「絶対にお前も大きくなるから」と言われて(苦笑)。高校2年くらいからですね、楽しくなってきたのは。

いま思えば、そのコーチに見る目があったということですね。

ジンヒョン:そこまで見えていたか、分かりませんよ(笑)。もちろん、いまでも連絡していますし、感謝していますが。

レディースの3選手は、GKを始めたきっかけは?

西中:小学校1年生からサッカーを始めて、当時は毎試合、順番でGKが回ってきて。何回かやっているうちに楽しいなと思うようになり。小4からコーチに「GKやりたいです」と自分から言いました。

ジンヒョン:自分から選んだんですね。すごいですね。何が楽しかったですか?

西中:止める喜びや、一人だけ手が使えることも楽しかったです。

山下:私は小4からサッカーを始めて、小6の時、ウェブで「GKをやってみませんか」という募集があったらしく、父に「行ってみたら」と言われて言ったら、大阪府トレセンの選考会でした。たまたま受かって、府トレのコーチから「セレッソのセレクションを受けてみたら」と言われて、そこでも受かって、そこからずっとセレッソでGKをやっています。

その選考会でGKは初めてやったのですか?

山下:はい。遊びのドッジボールとかはうまかったのですが、サッカーでGKをやったのは、選考会が初めてでした。

ジンヒョン:天才じゃないですか!

山下:ありがとうございます(笑)。

福永:私も小1でサッカーを始めて、5年生までフィールドプレーヤーをやっていました。私のクラブもGKがいなくて、じゃんけんで回していて、自分がやったときにすごく止めたらチームメートに褒められて、それに乗せられました(笑)。

ジンヒョン・西中・山下:ハハハ(笑)。

福永:あと、父が高校までGKをやっていたので、その影響もありました。父にはいろいろ教えてもらいました。

福永選手も、始めたときから手ごたえがあったのですね。

福永:はい。私もドッジボールが大好きで、止めるのは結構好きだったので。ボールに対して恐怖心はなかったです。

ジンヒョン:みんな楽しく始めていますね。うらやましいです(笑)。

GKの魅力、やりがいはいかがですか?

ジンヒョン:いまでも楽しいことより、苦しいことのほうが多いですね。一つしかないポジションですし、交代で入ることもなかなかない。一番、厳しいポジションです。そこで一つのポジションを守り続けるのは本当に難しい。それに、絶対いつかは失点する。何回、成功しても、一つのミスで帳消しになる厳しいポジションだと思います。GKの魅力を探すとすれば、ボールを遠くに蹴れること。フィールドプレーヤーは正確に合わせないといけないですが、GKはどれだけ遠くに蹴ってもオッケー。僕は大変なことのほうが多いと思っているのですが、GKの魅力、レディースの選手たちに聞いてみたいです。

福永:ゴールの前に立っているので、良くも悪くも勝敗に直結するポジションです。だからこそ練習や普段の準備が必要で、準備がうまくできて、自信を持ってプレーして、チームの勝利に貢献できたときは、どのポジションよりも達成感があるのかなと、勝手に思っています。

ジンヒョン選手も無失点で抑えて勝利したときには達成感があるのでは?

ジンヒョン:しっかり準備して無失点で終えたときの喜びはありますが、僕は達成感より、1試合が終わっただけ、としか思わない。すぐ次がある、と思ってしまう。良かった試合はあまり覚えていません。悪かった試合ばかり覚えています(苦笑)。

山下:私が思うGKの魅力は、試合中にディフェンスの選手に「ナイス!ありがとう」と言われることですね。頼られた瞬間はうれしいですし、GKの魅力の一つだと思います。1本のシュートを止める、止めない、で勝敗が決まるポジションなので、責任感もあります。

西中:やっぱり無失点で勝った瞬間はうれしいですし、ピンチを自分の手で止めることができることがGKの魅力かなと。最後の砦として、止めて勝てたとき、勝利を自分の力で引き寄せることができることが一番の魅力だと思います。

「最後の砦」であるGKとして大切にしていることは何ですか?

ジンヒョン:一つのひとつのプレーを大事にすることです。それがないと、全体としてもまとまりません。練習もそうですし、目の前のワンプレー、ワンプレーに集中すること。それが積み重なって、試合でのプレーや結果も変わる。1試合1試合を積み重ねていくことしか考えていません。

福永:ジンヒョン選手も仰っていましたが、大事にしているのは準備です。ポジションを細かく取って、いつシュートが来てもいいように準備すること。GKは後ろから見えているので、ピンチを作らせないことが一番。自分がセーブすることよりも前に、まずピンチを作らせないように心掛けています。

ジンヒョン:GKは準備がすべてですよね。それをずっと続けることで、体に馴染ませて、勝手に動くまで染み込ませることが大事。若いうちに意識してやっていくのはいいことですね。

福永:ありがとうございます。

山下:試合に臨む準備のところと、メンタル的にビビらないこと。WEリーグだと、昨年以上に強烈なシュートが飛んで来ると思うのですが、そこでメンタル的にも普段どおりにプレーすることを大切にしたいです。

ジンヒョン:切り替えることは大事ですね。失点しても試合は続くので。いまでも自分の課題ですが、メンタルを安定させることは本当に大事です。

西中:(山下)莉奈も言ったように、どんな状況でも、例えミスをしても、いつもどおりの平常心を保って、自分自身が持っているプレーを常にピッチで出すことが理想のGKだと思います。自分のプレーだけではなく、コーチングでチームを勝たせられるGKになることが理想です。

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感謝の気持ちと恩返しの意志。
4選手にとっての「セレッソとは?」

今年12月に30周年を迎えるセレッソ大阪。4選手にとって「セレッソとは」との質問に対しては、それぞれ深い思いが込められた回答が返ってきた。今シーズンから、セレッソ大阪ヤンマーレディースは女子のトップカテゴリーであるWEリーグに参入する。新たな歴史がスタートする1年である一方、キム ジンヒョンは、自身の“ラスト”も思い描きながらの1日1日、1試合1試合であることを明かした。対談の締めは、4選手がサッカーを続ける原動力について。

今年の12月にセレッソ大阪は30周年を迎えます。自身にとってのセレッソとは?

西中:自分を変えてくれたクラブです。実は、小学校から中学校に上がるタイミングで一回セレクションに落ちているんです。中学では、地元のクラブと男子の部活に入って3年間をプレーして、高校に上がるタイミングで「もう一回、セレッソを受けてみない?」と誘いが来て、今度は合格することができました。それまではGKコーチがいたことがなかったんです。YouTubeや本で調べながら、トレーニングをしていました。セレッソでは、毎日GKコーチにトレーニングを見てもらい、教えてもらえます。その環境の中でサッカーができる喜びがあり、自分のプレーも上達していきました。セレッソに入って関わるようになった人たちもたくさんいますし、自分の人生を豊かにしてくれたのが、セレッソというクラブです。

山下:セレッソは、選手もスタッフもみんな、人がいい。私は中1からずっとセレッソでやっていて、全体の中でも長いほうですが、これだけ長くいても、まだまだ新鮮な気持ちです。ずっとセレッソでプレーしてきたからこそ、このような対談もさせていただいていると思うので、とても感謝していますし、いいクラブだなと思います。

福永:セレッソに入ったタイミングは(山下)莉奈と一緒です。いいときも悪いときもみんなと一緒に過ごしてきたので、私にとってセレッソは家族みたいな存在です。サポーターさんも、悪い時もチームから離れていかない。常に温かい言葉をかけてくれます。温かいクラブだなと、在籍しながら思っています。

ジンヒョン選手は、話せば長くなると思いますが…。

ジンヒョン:思いはあり過ぎて、ここでは話し尽くせないですが、サッカー選手としても人間としても成長させていただいたクラブです。恩返ししたい気持ちは常に持っています。恩返しと言えば、リーグのチャンピオン。そこを目指していつも戦っています。どうしても達成したい。それくらい、想いが強いチームです。感謝していますし、チームのために、経験ある立場として、チームをいい方向に作っていきたいと、いつも思っています。

最後に、それぞれサッカーを続ける上での原動力は?

西中:自分の原動力は、このクラブでWEリーグを優勝することです。優勝してみんなで喜んでいる姿をイメージしながら、毎日の練習を頑張っています。

山下:家族とか、友達とか、ずっと見守ってくれていた人たちが原動力になっています。あと、フィジカル練習の日は本当にしんどいので、笑いながらやらないと、キツイ。3人で一緒に頑張って乗り越えているので、二人の存在も原動力になっています。

福永:私も家族です。父がGKをやっていたことは先ほど話しましたが、高校3年生の時に亡くなりました。最後に約束したのが、「GKを頑張るから」という言葉でした。しんどい時はその言葉を思い出して、頑張っています。父にいい報告ができるように頑張ろうと思っています。

ジンヒョン:ここまで長くやってきて、引退も近くなってきました。いまの原動力は、“最後”に向けてモチベーションを上げて、しっかりやっていこう、という思いです。ここから先、どこまでできるか。やってきた時間より、これからやれる時間のほうが短いことは確かです。ここまでしっかりやってきたからこそ、最後もしっかり締めくくりたい。そのために1日1日を大切にすること。ここからの1試合1試合は本当に大事だと思って過ごしています。

PROFILE
GK 福永 絵梨香
1997年8月19日生まれ、26歳。大阪府出身。高槻FCジュニアユース→セレッソ大阪堺レディース→セレッソ大阪堺ガールズ→セレッソ大阪ヤンマーレディース。
GK キム・ジンヒョン
1987年7月6日生まれ、36歳。大韓民国出身。東国大学校(韓国)を卒業後、2009年に加入してからセレッソ一筋。
GK 山下 莉奈
2001年2月7日生まれ、22歳。大阪府出身。T.S.K.金剛サッカークラブ→セレッソ大阪堺ガールズ→セレッソ大阪ヤンマーレディース。
GK 西中 麻穂
1998年4月27日生まれ、25歳。滋賀県出身。おおつヴィクトリーズ→セレッソ大阪堺ガールズ→セレッソ大阪ヤンマーレディース。