丸山良明 engine

技術を追求し、
唯一無二の選手を育てる。

セレッソ大阪・丸山アカデミーダイレクターが
風間技術委員長と進める
新しい取り組み

まずは指導者のレベルアップ
そして、育成の仕組みづくり

2022年8月3日、セレッソ大阪U-18が日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会で優勝を果たした。09年以来3度目、13年ぶりの快挙だった。また、9日に行われたクラブユース女子サッカー(U-18)大会ではセレッソ大阪堺ガールズがJFAアカデミー福島を破り、初優勝を果たしている。C大阪のアカデミーは男女ともに、この夏のクラブユースの頂点に立ったことになる。

「世界で活躍する選手を育てる」を旗印に育成に取り組んできたC大阪は、20年12月に風間八宏アカデミー技術委員長の就任を発表。21年1月から「技術」を軸に据えた育成活動に大きく舵を切った。指導者として大きなインパクトを日本サッカーに与え続ける風間氏の招へいは、クラブとしての大きな決断であり、それは新たな「変化」をもたらすことも意味していた。

そんな過渡期にあっての男女のアベック優勝は、アカデミーの目指す方向性が一つの結果を出した証左でもある。変化の時期、アカデミー全般を統括する任に就いた丸山良明アカデミーダイレクターに話を聞いた。

PROFILE

丸山良明 Yoshiaki Maruyama アカデミーダイレクター

1974年10月12日生まれ。東京都町田市出身。帝京高、早稲田大を経て、97年横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)に加入。モンテディオ山形→アルビレックス新潟→ベガルタ仙台→AC長野パルセイロ→チョンブリFC→ポートFC。13年現役を引退し、育成組織のコーチを歴任。C大阪U-18ヘットコーチ、C大阪U-23監督を経て21年よりアカデミーダイレクター。

まずはアカデミーダイレクターのお仕事を具体的に教えてください。
当初、「何をすればいいんだろう?」からスタートしました。森島(寛晃)社長や梶野(智)統括部長からお話を伺い、「目指していくべきセレッソの方向性」を確認し、その中で「アカデミーとして新たに風間(八宏)技術委員長を招いてやっていく」ということも聞きました。自分自身は指導者をずっとやっていくイメージでいたので不安もありましたが、セレッソのこの先を考えた時に、ここが大きな転機になるかもしれないというドキドキ感、ワクワク感が湧いてきたことを覚えています。
アカデミーには、「SAKURA SPECTACLEを体現する選手を育成する」という大義名分があり、クラブとしても「見に来てくれた人たちに夢、希望、感動を与える」「ドキドキワクワクさせるエンターテインメントを提供する」と謳っています。
では、ファン・サポーターの皆様をワクワクさせる選手を育てるためにはどうすればいいのか? と考えた時に、まずは指導者をしっかり育成する、指導者の頭の中を揃える、レベルアップしていくことが必要だと。それとともに選手育成の「仕組み」を作る。その「仕組み」の中でどう導いていくのかが問われていると考えています。
僕ら「人工のジャングル」と呼んでいるんですけど、プロはサバイバルレースです。いろんな国、監督、サッカーのスタイル、考え方がある中で、どんな監督だろうが、どんなサッカーだろうが、どんなフォーメーションになろうが、必要とされる選手を育てていくこと、それを目指しています。選手にもよく「スーパーサイヤ人になれ」って言います。誰かの陰に隠れる選手じゃなくてピッチには、スーパーサイヤ人が11人いる。そういうところを目指すんだよ、と。チームスポーツなので、ポジションの役割がありますが、根底には自分で解決できる選手になる、圧倒的な選手になる。ここを目指しています。
では実際、「そういった選手はどうやって生み出すんだ?」となります。そこでの大きなポイントが風間技術委員長の存在です。風間技術委員長は間違いなく大きな根底です。技術的な目線をしっかり選手、指導者、クラブに落とし込んでいただいている。「技術の定義」をしっかりと共有し、まずスタッフの頭、目線が変わらなければ選手も育成できない。
アカデミーダイレクターの仕事の結論としては、そういった風間さんの考えを軸にした「選手たちを導くための総合的なプロデュース」という言い方が正しいのかは分からないですけど、とにかく何でも役、グラウンドでもデスクワークでも駆けずり回っている、そんな毎日です。
就任し1年が経ちました。新たな方向性は見えてきましたか?
個人としては、アカデミー全体、そして特にはユースの試合や選手の成長を見た時に、技術を追求していくことでの変化を実感しています。一方で、ダイレクターという立場で進捗具合を評価する視点となると、まだまだ足りないとなる。整理されてきているからこそ、求めるレベルがどんどん高くなってきています。我々は技術を定義した中で現象を見るんですけど、その技術の追求も際限がない。
「今まで誰も見たことのない選手を育てる」「どこのクラブも真似できない世界で唯一の選手を育てる」。そうは言ってもそんな選手は見たことがないですし、僕らの頭にもあるわけではない。そこに向けて何をどう求めるかが自分たち次第になってくるんです。

止める、蹴る、運ぶ、受ける、外す、プラス、
「見る・見ない」という視点

丸山ダイレクターいわく、今のC大阪では「技術」を「ボールを操る」「体を操る」「頭を操る」と定義している。さらには、現在世に出ている、「止める、蹴る、運ぶ、受ける、外す」といったアクションに、「見る・見ない」を新たに加えて日々の指導を行っているという。

「技術」の定義を実際に具体化することの難しさはありますか?
言葉は噛み砕いて言っていますが、各々いろんな捉え方をしてしまいますし、目線を揃える難しさと大切さを日々感じています。自分自身としても、どう解釈・整理すればいいのか、いつも自問自答しながら取り組んでいます。
例えば武道には「型」があります。その型を習得するためには、自分をフラットにしないといけない。ただ、人間にはクセがあって、考え方もそうだし、体の使い方や力みや歪みもある。そういうものがある中で教えるのと、フラットな状態で教えるのとでは、入り方や伸び方も違うんです。なので、僕らがまずやろうとしていることは(基本的な「型」を植え付けるために)まずフラットな状態を作ること。
その状態とは、ボールを自由自在に操れること。ボールを操るための自分自身の体も自由自在に操れること。体を操る司令塔である自分の「頭」も自由自在に操れること。それを「技術」と捉えています。やればやるほど奥が深いし、伝えることもすごく難しい。「技術」を基軸にしながら、どこまで進んでいけるのか。そのチャレンジをずっとしているような毎日です。
先日、北野颯太選手の取材があり、「セレッソアカデミーの良さは?」という質問に対し、「指導者も含めて限界を決めないこと」と話していました。
風間技術委員長もよく言いますし、僕らも一番大事にしていることは、「人のせい、もののせいにしない」「自分に期待しろ」ということです。これがすべてです。自分にいかに期待できるか。矢印を自分に向けられるか。
自分自身が選手だった時もそうでしたが、選手たちにはいろんな言い訳があると思います。「監督が、ピッチが、仲間が、ポジションが」といった。でも、実際プロになった時は、どのポジションであろうが、どの監督であろうが、自分に与えられたタスクを達成できなかったら、監督や周囲の信頼も勝ち取れない。プロの世界では「じゃあ別の選手でやるよ」となるわけですから。自分のやりたいことだけをやる選手なのか、それともスーパーサイヤ人になるのか。
アカデミーが最も大切にしていることは何でしょうか?
今、取り組んでいることは、大きなチャレンジであり、問題提起だと思います。これまでも日本のサッカーの中で、Jリーグが立ち上がり、世界の潮流やさまざまなやり方を取り入れて、自分たちのオリジナルを作ろうとやってきたと思います。そうした流れの中に一石を投じるというか、自分たちの中で定義した技術を追求していこうとしています。誰かが定義したものではなく、自分たちで物差しを作りました。
これが成功か否かは、10年後なのか20年後なのか、分かりません。でも、それをクラブとして本気でやろうとしています。だから日本のサッカー界にとってもすごく重要ですし、成功しないといけないと思います。
私自身、「技術の追求」こそ、日本人に向いていると感じます。「匠を極める」という言葉もあります。難しいですけど、日本人ならできると思います。逆に言うと、そういう選手が“出てくる”可能性がすごくあると思うんです。
日本人としての、スピードやパワーを特徴としてヨーロッパにチャレンジするとします。プレミアリーグや、例えばチャンピオンズリーグでプレーした時に、本当に速いのか、強いのか。技術の追求は、全部逆を取ります。海外の屈強な選手たちの中でも圧倒的になる選手を生み出そうとした時に、強靭で屈強なパワーやスピードにどう対抗するのか。そこは技術を極めることだと。匠だと。
我々がやろうとしていることを「ボールを止める」で説明すると、まずは「静止させる」。自分で何でもできるところにボールを一度で静止させる。それによって、相手を止める(身構えさせる)。その状態を意図的に作り出します。相手が動いたら逆を取りますよ、来ないんだったら仕掛けますよ、と。「相手を意図的に操る」、よって「選べる」ことが「止める」ということなんです。
さらに言うと何のために「止める・蹴る・運ぶ・外す・見る・見ない」があるのか。それ自体が目的ではありません。サッカーの目的はゴールです。最短、最速、時間をかけずにゴールを目指すために技術を使うんです。だから、止めることや蹴ることが目的になってしまうとこんがらがる。ここでみんな苦労していますね、正直スタッフでも。
そこが目的になると、本末転倒になる。
サッカーのゲームの中で、勝つために、ゴールを奪うためにその目線を持つ、そのために頭の中を整理する。どうやってその技術を使って、最短、最速でゴールを取れるのか。
「運ぶ」という定義は、「目的地に最短でボールを運ぶ」「いつでもボールが出せる状態」にあることで、ドリブルという概念じゃないんです。次のステップで次のプレーができる。分かりやすく言うと、メッシが(ボールを)持っている感じです。相手の足が出て来てもいつでも外せるし、相手が来た瞬間にパスを出せるし、逆を取れる。それを「運ぶ」と定義します。
さらにそこで、出し手と受け手の「いつ」「いま」が合うから「外す」が実現する。点で合うからスペースはいらない。「動いてから」だと遅い。「こうなったらこうなる」という未来の映像が出し手と受け手でつながってないと実現しない。それを、毎日トレーニングしていくことで少しずつですが、確実にレベルアップしていきます。そのためには指導者も整理できてないと、選手に伝えられないですよね。
指導者も選手も頭を整理するのが大変ですね。
選手の成長速度を考えた時に、何が一番速いかを考えると、風間技術委員長に直接各カテゴリーを回ってもらい、全員に直接指導してもらうことかもしれませんが、それは現実不可能です(笑)。だからクラブとして「仕組み」にしないといけない。すると結局は指導者なんですね。指導者がその目線を持ち、しっかりと指導できれば、伝えられれば、選手たちを成長させられます。
アカデミーダイレクターという立場からすると、選手の成長速度を速くしたい。私自身が一人のサッカー人であれば「1年でこんなに変わるんだ」と思っていますが、ダイレクターという立場から見るとまだまだなんです。

今までにない、唯一無二の
突き抜けた選手を育てるために

丸山ダイレクター自身は、横浜マリノス(当時)でプロキャリアをスタートしている。アルビレックス新潟やベガルタ仙台でセンターバックとしてプレーし、キャリアの終盤はチョンブリFC、ポートFCというタイリーグも経験した。

2012年にJリーグのアジア戦略がスタートすると同時に「Jリーグ・アジアアンバサダー」に就任。Jクラブの社長や強化部長レベルの方たちが東南アジアに視察に来る際に、アテンドをしたという。

その東南アジアでの経験が、現在のポジションにもつながっている。

アカデミーの東南アジアでの活動についてもお伺いします。C大阪は、タイのBGパトゥム・ユナイテッドFC(旧バンコク・グラスFC)とパートナーシップを結び、「ヤマオカ・ハナサカ・アカデミー」の活動もされています。具体的な活動内容は?
大きくはヤンマーのグローバル戦略、東南アジア戦略に伴って、C大阪がパートナークラブを探すなかで、旧バンコク・グラスとマッチングしたことが最初です。僕はその1年目からバンコク・グラスのジュニアユース年代のコーチとして現地にいました。
「ヤマオカ・ハナサカ・アカデミー」はパトゥム・ユナイテッドとセレッソの共同で、2016年に設立されました。タイの若手選手の育成に貢献しています。現地でセレクションをして寮も建てて、選手たちは寮に住んでサッカーや勉強に励んでいました。当初はセレッソから駐在のスタッフも派遣しており、そのなかでタイの指導者の育成も行っていたのですが、コロナ禍でちょっと止まってしまっています。
今後、新しい取り組みを行う形になると思います。そのための視察に先日タイに行ってきたところです。パートナーであるパトゥム・ユナイテッドは、昨年タイリーグで優勝し、現在ACLでも勝ち進むなど、ビッグクラブになってきていますので、双方で求めるモノと求められるモノを少しずつ変更しているところもあります。歩調を合わせながら協議している状況です。
セレッソの各カテゴリーも、バンコク・グラス時代に提携して以降、定期的に遠征に行っています。セレッソがタイに行った時はバンコク・グラスが、バンコク・グラスが日本に来た時はセレッソがアテンドしてきました。グラウンドやホテル、バスの手配を自力でやるのは大変ですので、提携クラブがあることは強みです。コロナでしばらく止まっていたのですが、トップチームも来年は、タイキャンプを再開するかもしれません。
ありがとうございます。最後に、ご自身のお話も聞かせてください。丸山ダイレクターの原動力は何ですか?
今やろうとしていることに私自身がドキドキワクワクしているということに尽きます。自分たちオリジナルで世界にチャレンジしようとしている。日本サッカーに対しての問題提起。一つのモデルとしてチャレンジすることで、いろんな波及効果が生まれると思います。
そのためには、まず「商品」として見せられないといけない。その速度を速めないと内外に伝わっていかない。例えば、「相手チームの11人を自チームのペナの中に閉じ込めてしまい、その守備DFを崩すんだよ」と言っても、「何言っているの?」「そんなことできるわけないじゃん」という反応になるんです。実際の姿を見せないと。そう考えると「今までになかった唯一無二を作ること」が原動力ですね。
未来へ向けて、どのようなチャレンジをしていきたいですか?
「今まで見たことのない選手を作る」と何度も言いましたが、結局それらは自分たち次第です。難しいですがやりがいのある挑戦です。世の中、一歩外に出ると、世界の潮流で生き残っていかないといけないサバイバルレースがそこにある。最初に話したジャングルです。今の世の中はルールがあって、規則で縛ろうとする世の中があって、それを選手たちに教えなきゃいけない自分たちがいる。でも、一方、ルールを、発想を超えるような、とんでもない選手を生み出したい、いや、生み出そうとしています。彼らに何を提供すれば、どんな環境を与えたら、我々の概念を突き抜ける選手を生み出すことができるのか。今はこれをずっと、興味深く悩んでいます。
どんな選手が出てくるのか、楽しみです。
そんなに待てる世の中じゃないと思います。だから、アカデミーダイレクターの役割としては、内外に対して早く、ある程度の実績を見せないといけないですね、どうしても。
理念だけではなく、実際に見せていかないといけない。
理念は根幹の一番大事な部分です。そこに則って突き抜けた選手を生み出したい。僕らは世界にそれを発信したい。でもやはり難しい部分はあります。勝つ、負ける。負ければスタッフも選手もいろいろ言われます。個人として、クラブ全体としても、耐えられるかどうか。アカデミーの最終的な勝利は、どれだけトップチームにいい選手を送り込めるか、世界で輝く選手を輩出できるのか、ということです。「いや、我々は本当の意味で勝つために、負けられます」と応援していただいているサポーター同士が、セレッソファミリー同士が自らお互いに言えるぐらいになった時に、クラブの歴史、文化が醸成されていくと思います。
やることは我々の頭次第で、果てしない。風間技術委員長ともよく話すんですよ。「僕らの役割は何なんですかね?」と聞くと、「そうだな、やんなきゃやんないで、何もやらなくてもいいのかもしれないけど、やろうと思えば無限だな」と(笑)。やっぱりサッカーが好きで、世界に出ていく選手を見たい。その気持ちは押さえられるものではないよね、となる。それができる環境が今のセレッソにはあります。どれだけの年数でそれを実現できるか。このことが僕にとって一番のチャレンジです。
CHAPTER #2

セレッソ大阪、アカデミーの力

未来への engine

「世界に通用する選手の育成」を掲げたセレッソ大阪アカデミー。
セレッソ大阪から世界へ。
「未来に美しい花をたくさん咲かせたい」、
そんな未来への原動力に迫る。

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CHAPTER #1

アスリートたちの engine

なぜ、トップアスリートは挑戦し続けるのか。
戦い続けるトップアスリートの原動力に迫る。

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