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テクノロジー

空飛ぶヨット

もはやヨットではないのか―AC75艇

現在のアメリカズカップで最先端テクノロジーといえば、なんといってもフォイリングでしょう。フォイリングはウォータースポーツの世界に旋風を巻き起こした革命であり、現在のアメリカズカップでも革新的な役割を演じています。このテクノロジーが洋上を時速100キロで疾走する怪物マシンを作り出すのです。
フォイリングは、水中翼船で使われていますから見たことがあるでしょう。最近では、フォイルサーフィンもよく見かけます。サーフボードの下に”ハイドロフォイル”という水中翼を取り付けたサーフィンです。水中翼船のように、船が加速することにより、水中翼に揚力が生まれて船底が浮き上がるのと同じ原理を利用しています。船底と海面が離れることによって船(サーフボード)と海面との抵抗が少なくなり、動力が効率よく推進力に変わるという仕組みです。
水中翼船ではCFRP製の船体を50ノット以上の速度で航行させますが、1万馬力の大出力を持つガスタービンエンジンを搭載する高速フェリーよりも、アメリカズカップ艇はさらに速いのですから、自然の力と人間のテクノロジーや畏るべし!

異次元のレベルに飛ぶフォイリングヨット

2018年にAC75クラス規則が発表され、セーリングの新たな時代が始まります。AC75を“飛行”させるために必要なエンジニアリングとセイリングテクニックは、これまでとはまったく異次元のものとなりました。
そして、2021年の第36回アメリカズカップでは、AC75はその独自性と革新性を証明し、世界中のファンを中継画面に釘付けにしました。
エミレーツ・チーム・ニュージーランドが第36回アメリカズカップの防衛に成功してから8か月後の2021年11月15日、最新のAC75「バージョン2」が発表されました。2024年にバルセロナで使用されるフォイリングモノハル艇は、微風下での性能を改善し、乗組員数を11人から 8人に減らすために部分的にルールが調整されました。
AC75は大きい―全長75フィート、全幅は16フィートですが、重要なのは軽量性です。なぜなら、AC75は“飛行”を意図して設計されているからです。また、AC75は他のヨットと異なり、キールではなく、新しいコンセプトによってバランスを保っています。キールに代わるフォイルカントアームが用意され、船の下または外側で作動して、バランスを保つために必要なレバレッジを提供します。

1艇のみ製造が許される各チームの最高機密を盛り込んだ最新ヨット

新艇の部品はある程度までは同規格のものが供給されます―マスト、リグ、フォイルカントアーム、およびそれらの油圧はすべて標準のコンポーネントです。しかし、レースで勝つための優位性を見つけるためにデザイナーが実験改良できる領域はまだたくさんあります。
船の下水域で実に面白いのは、フォイルカントシステムです。これはバッテリー駆動の油圧パワーユニットで、非常に強力で重いフォイルカントアームを持ち上げるためのエネルギーを供給します。以前は腕の力で電力を起こす作業をしていましたが、新しいAC75では、足の力で電力を供給することになっています。そのため、クルーの人数が11人から8人に減らすことが可能となりました。
船がタックを変えると、フォイルカントシステムが作動し、水中に1つの水中翼を残し、もう1つを持ち上げ、その重さがバラストとして機能します。アームの先にはチームの最高秘密の武器であるフォイルウィングがあります。寸法と重量を規定する基本的な規則を除いて、ここはデザイナーにとってオープンな領域で腕の見せ所でもあります。飛行機の翼の先がクニョっと曲がっていますが、あのテクノロジーの応用です。あのアイデアによって飛行機の性能は格段に上がることになりました。

チームはAC75を1艇しか建造することが許可されていないため、前回のカップで見たものから多くが変わるのか、それとも新しいモノハルが優勝したニュージーランドのボートに似たものになるのか―各チームの腕の見せどころ、世界が注目しています。