国の威信を賭け、数百億円を費やして手にするものは「栄誉」のみ
たかがヨットレース……ではないのです。第33回、34回大会で優勝したオラクル・チームUSAのオーナーのラリー・エリソンは、個人資産で数百億円もの資金を注ぎ込んでいます。これまで、イギリスの紅茶王サー・トーマス・リプトン、アメリカの鉄道王ハロルド・ヴァンダービルドなど、海を愛する数々の大富豪たちがアメリカズカップに挑戦してきました。
何がそこまで彼らをアメリカズカップに夢中にさせるのか―。
国の威信を賭けた戦い、高速で進むヨット、テクノロジーとイノベーション、高度なセーリングスキル、歴史と伝統が作り出す様々なエピソード。このような様々な要素が折り重なっていますが、その魔力の源泉は、伝統的かつ貴族的なイギリスに挑戦した若いアメリカ、という構図から来ているのかもしれません。
現在も各チームのオーナーは世界的な大富豪たちが主体です。アメリカはアムウェイの会長ダグ・デヴォス(総資産50億ドル以上)と大手トラックレンタル会社PENSKEの会長ロジャー・ペンスキー(総資産40億ドル)、スイスは企業家エルネスト・ベルタレッリ、イタリアはプラダグループのCEOであるパトリツィオ・ベルテッリ、イギリスは化学会社INEOS会長のジム・ラトクリフ卿など、いずれも豊富な資金を持つ大富豪ですが、みな自然とヨットをこよなく愛する海の男たちです。アメリカズカップで得るものはセーラーとしての“栄誉”のみ、そのためだけにこの大レースに挑戦し続けるのです。